29話 花火大会④
花火大会はフィナーレを向かえ、最後の大きな花火が夜空に打ち上げられた。
周囲は最後の花火が消えていくのを見届け、一瞬の静寂が荒川河川敷を支配した。
そしてすぐに、ざわめきが戻った。
それに合わせ、彰と八重樫も口を開く。
「綺麗でしたね~」
「そうね!久しぶりだったけどやっぱり花火はいいわね!」
「はい!そういえば、足はどうですか?まだ痛みますか?」
「うん、まだちょっと痛むわ。」
「そうですか...」
「とりあえず、本田たちに連絡してみます。」
「そうね、彼らには私から謝るわ。」
彰はポケットからスマホを取り出した。
マナーモードになっていたので気づかなかったが、本田から着信が3件も入っていた。
慌てて折り返しの電話をかけた。
ワンコールで本田は電話に出た。
「もしもし」
「もしもしじゃねーよ!!お前ら今どこにいるんだ?!」
「あっ、ごめん、今河川敷のすぐ近くの神社にいる。」
「なにしてんだよ?もしかして、八重樫さんとイチャついてたのか?(笑)」
「そんなんじゃねーよ。シートまで戻ろうとしたんだけど、途中で八重樫さんが転んで、その時に捻挫しちゃって、花火始まっちゃったかたここで見てたんだよ。」
「そっか、そういうことだったんか。じゃあそれならそれでいいや(笑)。」
「どういうこと?」
「俺と笠原ちゃんで先帰るわ(笑)。八重樫さんとごゆっくり~。」
「どうしてそうなるんだ...?」
「グッドラック!」
そして電話は切れた。
「八重樫さん、一応本田とは連絡取れました。あいつら先に二人で帰るらしいっす。」
「そうなのね。」
八重樫は少しうれしそうに返答した。
「八重樫さんまだ足痛かったら肩貸しますよ?」
「ありがと...」
「とりあえず人がある程度減るまで待ちましょうか。」
「それがいいわね。」
・・・
・・・
人がある程度減ったところで、彰は八重樫に肩をかし、静寂に包まれた河川敷を二人でゆっくりと歩き出した。
「申し訳ないわね...」
「全然いいですよ。」
「でも、今日ほんとに楽しかったわ。誘ってくれてありがとう。」
「僕も楽しかったです。」
「また来年も来れるかしら?」
「きっと来れますよ!」
「いきなりで悪いんだけどさ、山城君は今好きな人とかいる?」
「今はいないですかね。ちょっと前まではいたんですけど。」
「そ、そうなのね...」
「でも、前好きだった人は死んだんです。」
「えっ...」
「異世界にいたときに好きになった人だったんです。名前はエマ。一緒に冒険していたパーティの仲間だったんです。僕が異世界に飛ばされてから初めて話した人でした。彼女は僕をパーティに招待してくれて、そのおかげで異世界でも楽しく不自由もなく過ごすことができました。僕は本当に彼女の存在に救われてました。あれ、なんでだろう、涙が止まらない...」
「つらいならもうその話しなくていいわよ... この話題振って悪かったわね。」
「ごめんなさい...」
悲しみに満ちあふれた声で彰は八重樫に言った。
八重樫は、嫉妬心というより、彰に対して申し訳なさが勝ってしまった。
二人はアパートまで帰る道中、これ以降会話を交わすことがなかった。
・・・
・・・
エレベーターの前に着いた時に、ようやく彰が口を開いた。
「八重樫さん、今だけ少し許してくれませんか?」
そう言って、彰は八重樫を抱きしめた。
そしてそのまま、大粒の涙をぼとぼとと落とした。
八重樫は驚いた表情を見せたものの、彰の経験した、大切な人を失う辛さに共感し、包み込むように彰を抱き返した。
少し経つと、彰が落ち着いてきたので、自然と二人は離れた。
そして、八重樫が彰を部屋まで送りとどけた。
彰を送りとどけた八重樫はすぐに自分の部屋へと戻っていったのであった。
・・・
・・・
・・・
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