27話 花火大会②
本田と笠原も、他の二人と同じように、屋台巡りをすることにした。
彼らはまず、たこ焼き屋に行き、次にお好み焼きを食べるという粉ものツアーを展開した。
これは、笠原が大学時代大阪にいたこともあり、粉もののソウルを関西人からしっかりと植え付けられた影響であろう。
粉ものを食した後は、適当に屋台を巡り、笠原はリンゴ飴を、本田はイカ焼きを買った。
すると本田がいきなり、笠原に自分のほうを見るように伝え、いきなり手に持っていたイカ焼きを一口で口に入れた。
もちろん本田はむせたが、1分ほど噛み続けてようやく飲み込むことができた。
これを見ていた笠原は冷たい表情をしていると思いきや、笑って本田の様子を眺めていた。
そうこうしていると、時間が近づいてきたので、本田がパッとかき氷を二つ購入し、二人はビニールシートへと戻っていった。
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時刻は18:45。
「おっせーなあの二人。」
「大丈夫ですかね?」
「まぁ人混みも多くなって移動に時間がかかっちゃってるんじゃない?」
「それならいいんですけど。」
結局、15分経っても、二人は戻ってこなかった。
そして、花火が上がり始めた。
本田と笠原は仕方なく、二人で花火を見ることにした。
花火が上がり始め、幻想的な世界観に荒川河川敷は支配されていく。
花火は不思議と男女の距離を縮めるものだ。
本田はあぐらをかきながら、地面に手をついて座っていたが、笠原は自分の手を本田の上に重ねた。
本田は笠原の方を見るが笠原はにっこりとした笑顔で本田の顔を見つめていた。
そしてこう言う。
「本田さん。今は少しこうしててもいいですか?」
「べ、べつにいいけど。どうしちゃったんだ笠原ちゃん?」
「私がこうしたいだけなんで気にしないでください。」
そういって、ふたりは手を重ねながら、空を見上げ、光っては散っていく閃光を目で追いかけていた。
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これは3年前の話だ。
笠原友香はKEPT社に入社した。
彼女は学生時代はコミュニケーションをとるのが下手で、集団に属すのが苦手なタイプだった。
そのため、入社してすぐの頃は、いかにして周囲に溶け込むのか必死に考えていた。
そんなときだった。笠原の新人指導として指名されたのが本田だった。本田は言わずと知れたアホではあるものの、コミュ力も高く、人望の厚い人間だった。
本田との出会いをきっかけに、笠原は徐々に自分の居場所を見つけることができた。
本田が気安く話しかけたり、笑わせたりしてくれることで、気持ちが楽になったり、笠原の描く絵を見て褒めたりしたときには、うれしさでいっぱいになった。
そんな感情が積もり積もって、いつしか笠原は本田のことが気になっていた。
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そして今日、ようやくそのチャンスが来た。
最初はそんなことするつもりなかったのに...
手に触れられただけで幸せなはずだったのに...
笠原の中で、様々な感情があふれだす。
そして、繋いでいないほうの手で本田の方をつつき、振り向き際に、
「・・」
と伝えた。
笠原の声は、花火の音にかき消され、本田は聞き取れなかったが、笠原の口の動きを見て彼女が言ったことがなんとなくわかった。
「すき」
すると本田は、急にかっこつけて、
「これが返事だ。」
と言って少し赤くなった頬を隠すように顔を上に向けたまま、笠原の手を強く握り返したのであった。
そして、本田はちらっと横目で笠原を見ると、笠原は本田に少し照れながら笑顔を向けていた。
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