24話 曇りのち晴れ②

彰と、八重樫は気まずさを抱えたままこの日の仕事に取り組み始めた。

二人は立場上、仕事中にコミュニケーションをとる機会が多いため、彰は少し心配していた。


しかし、意外にも八重樫は仕事中特に気まずさを引きずることなく彰に接していたため問題なかった。


おそらく、朝デスクで一人で頭を冷やしていたおかげであろう。


仕事が一区切りついたので、昼休憩をとることにした彰。

八重樫が機嫌をなおしたと思った彰は八重樫を昼ご飯に誘うが、スパッと断られてしまった。


そのため、彰は一人で行きつけのそば屋へ一人で行った。


そばを食べている最中、スープに写る顔を見ながら、自分が八重樫に対してなにかしてしまったのか必死に考えていた。

だが、そんなこと彰にはわかるはずがなかった。

そばを食い終わってなにも思い当たることがなかったので直接八重樫に聞くことを決意した。


オフィスに戻ると、八重樫はデスクでコンビニで買ったおにぎりを食べていた。


「八重樫さんお疲れ様です。」

「おつかれ。」

「土曜の花火大会の件なんですけど...」

「私行かないわ。3人で楽しんできてらっしゃい。」


遮るように花火大会へ行くことを拒んだ八重樫に対し、彰は、


「八重樫さん僕に怒ってますか?今日あたり強くないっすか?」

と言った。


すると八重樫は大きな声で、

「もう、今はほっといてくれないかしら!!」

と言った。


その反応に驚いてしまった彰は、

「はい。すいませんでした。」

と悲しげに声に出し、自分のデスクへと戻っていった。


そして、わだかまりが解けぬまま午後になり仕事が再開した。

昼休憩が明けてからの八重樫の仕事ぶりはもう最悪であった。

普段全くミスをしない八重樫が、ミスを連発した。

発注する材料の個数の桁を一桁間違えたり、プログラミングチームの手伝いをしては、プログラミングコードを派手に間違えたりと普段からは考えられない八重樫美咲がそこにいた。


一通り仕事が終わった18:00。

八重樫は疲れ切った様子でそうそうに退勤した。

一方の彰は今日は時間内に仕事が終わらなかったので残業することにした。

残業している最中、落ち込みながら帰って行く八重樫の背中が彰の頭にずっと残っていた。少し、いや、かなり心配していた。


19:30に仕事を終えた彰は電車に乗って帰宅する。

その道中にコンビニによって、缶ビールを2本買ってアパートに帰った。

エレベーターに乗り、八重樫の住む4階のボタンを押し、その部屋へ向かった。


2缶のビールをレジ袋に入れぶら下げながら、インターホンを押し、八重樫を待つ。

しかし、部屋から返答がないのでレジ袋をドアノブに掛け部屋に戻った。


部屋に戻ったあとに、


山城彰:お疲れ様です。部屋まで伺ったんですけど、八重樫さんいなかったので、    ビールだけ置いておきました。これ呑んで元気出してください!!あと仕事のミスは気にしないでください!僕がカバーするんで!あと、なにかあったら相談乗るのでなんでも話してください。


とLINEを送り、ベランダに出て煙草を吸った。


・・・

・・・


今日は定時に帰宅した八重樫。

普段はミスすることなんでほとんどないのに、と落ち込みながら長四角に揺られながらアパートの部屋へと戻っていった。


部屋に帰るとベッドに寝転がりながら、昼休憩のときに、彰に対して勢い任せに放ってしまった言葉に勝手に苦しんでいた。


これでもう、彰には嫌われてしまったかもしれない。ただただ落ち込んだ八重樫は、彰を少しでも嫌いになるための材料を探すために彼のSNSにかじりつくが結局なにも見つからず、むしろ彰の影が濃くなっていくだけだった。


そんなことをしていると、部屋のインターホンが鳴った。

カメラを覗くと、玄関には彰が立っていた。

合わせる顔もないと思ってしまった八重樫は、居留守をしてしまった。


ドアののぞき穴から彰が帰ったのを確認したあとに、ドアを背もたれに座り込んで様々な感情を彼女を襲った。


なんでこんなに気を遣わせちゃったんだろう...

私が勝手に期待してただけなのに...

私最低だ...


という思考が永遠にループしていたが、一つの通知音がそれらを遮った。


それは彰からのLINEだった。

そのメッセージを読み、彼女は目から涙を流しながらドアを開け、ドアノブにかかっていたビールを取り、すぐに部屋に戻って一人で缶をあけビールを喉に流し込んだ。


ごめん。山城君。


そう思ったものの、不器用な彼女にはそれを言葉にするすべがなかった。

結局メッセージもどのように返信したら良いのかわからなくなり、返信せずにシャワーを浴び、そのまま眠りについてしまった。


・・・

・・・

・・・

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