18話 カラオケ

カラオケボックスに入った二人。

彰は学生時代振りのカラオケにワクワクしつつも、少し緊張していた。

それもそのはず、男女二人きりで、密室な空間にいるこの状況。

彰にとっては、意識するなと言われてもしてしまうような状況だった。

だが八重樫はそんなことも気にせず、リモコンを取り、歌う曲を選んでいた。


「八重樫さん、飲み物なにがいいっすか?」

「私はウーロン茶で。」

「了解です~」


そう言って部屋を出て、ドリンクバーへ行き、飲み物をグラスに注いだ。

部屋に戻ろうと、扉に手を掛けると、レベチな歌声がほんわかと聞こえてきた。

曲は最近流行っているあの曲だとすぐにわかった。


そして、ドアを開けた途端、その歌声は彰の耳を一瞬にして支配し、彰は扉の前で立ち尽くしていた。彰は、歌っている八重樫の視線にようやく気づき、慌ててソファーに腰掛けた。八重樫が彰の想像の5~10倍うまかったので、急に歌いづらくなった。彰自体は、音痴ではないものの、特別うまいというわけでもなかったので緊張し始めた。


八重樫が一曲歌い終えたタイミングで、


「八重樫さんまじで歌うまいっすね!!」

「ありがと。カラオケは大好きで昔からよく来るの。時には人からだって行くわ。」

「さすがっす!」

「ほら、山城君も早く歌いなさいよ(笑)」


そう言われ、彰は慌ててリモコンを操作し、学生時代に流行っていた曲を入れ歌った。歌い終わると、八重樫は意外にも褒めてくれた。


こうして交互に二人は歌い続けるのであった。

歌い続ける中で、調子に乗った彰は、高校時代から大好きなハードロックの曲を入れ、歌い始める。イントロが流れると同時に、ソファーの上に立ちあがり、Aメロをデスボで歌い始める。八重樫も面白がって笑ってくれていたので最初は問題なかった。しかし、1番を歌い終えた彰が間奏時にヘドバンしていると、足を滑らせ、顔面から落ちた。


「痛て~... ってあれ、あんま痛くない。」

顔面から落ちたはずの彰だったが、ソファーに顔をぶつけたのかあまり痛いとは思わなかった。だが何かがおかしい。ソファーはこんなに柔らかかったのか。そして、ソファーは白色だったのか。


否。


彰は恐る恐る顔を離すと、目に映ったのは、真っ赤な顔をし、ソファーに倒れている八重樫だった。そして、顔を離した途端、”パチンッ”という音とともに、強烈な痛みが彰の右頬を襲った。こうしてようやく状況を理解した彰。彰はソファーの上でヘドバンをしていたところ、足を滑らせ八重樫を押し倒し、顔面から八重樫の胸に落ちてしまった。


「あ、あ、あんたなにしてるのよ?!」

「す、すいません...」

「ほんとになにしてくれてるのよ...」

「ごめんなさい。」


ひたすら彰は謝り続けた。

しばらくすると、八重樫も冷静さを取り戻し、


「悪かったわね... その、、咄嗟とっさにビンタしちゃって...」

「いいえ、悪いのは僕のほうなんで...」

「もういいわ。時間もあと少しだし、気にしないで歌うわ。」


八重樫は再びマイクを握り、歌い出した。


彰は、未だに気まずそうな顔をしていたので、先ほど事件が起こった曲を八重樫がもう一度入れ、彰に歌わせた。


「ほら、さっき1番までしか歌ってないでしょ?次は最後まで歌ってちょうだい。でもヘドバンは禁止ね。(笑)」


八重樫が気を利かしてくれたので、彰は気持ちが少し楽になった。


彰が歌い終え、ちょうど時間が来たので、二人は退室し会計を済ませ今日のところは帰ることにした。


帰る道中、八重樫はヘドバン事件があったにもかかわらず、終始笑顔で今日は楽しかったと、彰に話していた。そこまで八重樫がうれしそうにしてくれたので、彰も自然と笑顔になった。


「今日はありがと!また暇な休日は私に付き合ってちょうだい。」

「こちらこそありがとうございました。」


そう言ってエレベーターで解散し、それぞれの部屋へと帰っていくのであった。


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