9話 打ち上げ

投票を終え、雑務を片付けていると、時計の針はもう18:00を指していた。

特に残業をする必要もなかったので彰は荷物をまとめ、アパートへ帰る支度をした。

鞄にPCを入れ、オフィスの玄関にある傘立てから傘を抜き、

「お疲れ様でした。」

と挨拶をし、帰宅しようとしたときだった。

「お疲れ山城君。よかったらみんなで今日の打ち上げ行こうと思ってたんだけどどうかしら?」

「あっ、マジすか?」

彰は反射的に本田の顔を見つめるが、本田が首を縦にコクりとしたのを見て、

「あっ、じゃあ僕も行きます!」

と元気よく答えた。

というわけで、プロジェクトメンバー9人で打ち上げに行くこととなった。

一行は電車に乗り、有楽町へ向かった。

彰が入社したときから、打ち上げは決まっていつも有楽町で行われていた。

そして今日の会場もどうやらそこになるらしい。

会社を出て、15分ほどで飲み屋についた。

店に入ると、本田が先頭に立ち、

「9人で予約した本田っす!」

と店員に伝え、メンバーは席へ案内された。

「お客様、本日なんですけど、4名様席を2つしかご用意できませんでしたので、一つの席は狭くなってしまうのですが大丈夫でしょうか?」

「問題ないわ。」

八重樫が店員にパッと答え、適当に席に腰を下ろしていく。

席は、八重樫、彰、本田、笠原でワンテーブル。

残りの5人が隣のテーブルに座った。

全員が席に着いたタイミングで、八重樫が店員を呼び、飲み放題といくつかのおつまみを注文した。

乾杯ドリンクはカシオレの笠原を除き、みんなビールを注文した。

1分もしないうちに、若い元気なバイトの兄ちゃんがグラスを持ってきた。

「お待たせしました~生になります!」

そうして、メンバー全員の手元にグラスが行き届いたタイミングで八重樫が、

「みんな、今日はお疲れ様!今日は思い切って呑んでいいわよ!じゃあ行くわね!

カンパーイ!!」

普段をあまり知らないが、八重樫はかなりハイテンションで乾杯コールをした。

・・・

・・・

食べ飲み続けること1時間。

徐々に、注文した食べ物や、酒に腹が満たされていく。

酒豪である本田は問題ないものの、彰のとなりに座る八重樫と、正面に座る笠原はすでに酔いが回ってきており、ダルがらみし始めている。

「本田~、あんたのプレゼンナメてたの?あんたよくもまぁあんなに女性を敵に回す企画を堂々とあの場でいえたわね。あと山城~、あんたは中二病?(笑)今日の行きの電車の時も...」

朝の出来事を八重樫が話そうとしたので、彰は慌てて八重樫にヘッドロックをかまし、しゃべるのをやめさせた。

八重樫は今朝、痴漢に遭ったことを会社の誰にも話しておらず、彼女自身の心の傷をえぐらないようにここで止めておいた。

というのは建前で、彰はただただ自分がライトニング・セイバーと叫びながら傘を振りかざしたことを思い出し、かなり恥ずかしくなったため、止めたのであった。

異世界にいたときも同じような経験をしたことがあった。

・・・

ダンジョンの中ボスにあたるカトブレパス(牛型モンスター)を倒し、パーティーメンバーと酒場で呑んでいたときのことだ。

そのボス攻略中に、アキラはラストアタックを決める直前に、足下にあった石に足を引っかけ、盛大にこけたのであった。

そのときもかなり恥ずかしかった。

それをヒーラーのメイが呑みの席でネタにしたときに、八重樫に今しているようにヘッドロックして話すのをやめさせたのを思い出した。

八重樫にヘッドロックをかましながら思い出に浸っていると、

八重樫はゲラゲラ笑いながら、「もーやめて~」といったので解放した。

その後も1時間ほど飲み続けて、メンバーは店を出ることにし、今日のところは解散することにした。

・・・

・・・

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る