4話 出勤②

久しぶりの出勤ということは電車の人混みも久しぶりというわけだ。

彰はとにかく満員電車が嫌いだった。

そこに加えて、今日は雨が降っている。

8月の暑さに、雨による湿気。そして、電車内はそれらが詰め込まれている。

つまり、彰にとっては最悪のコンディションであった。

彰は、神田駅で山手線に乗ってから、有楽町で東京メトロに乗り換えた。

乗り換えた後に、電車に乗っているとどことない違和感が彰を襲う。

目の前には、50代くらいの薄汚い作業服を着たおっさんが立っており、その奥にはスーツ姿の女性が立っている。

その女性は、すらっとした体型で、長く伸ばされた黒髪には艶があり、顔立ちもはっきりとしていてかなり美人だったので、彰は視線を奪われた。

しかし、その女性は今にも泣き出しそうな顔をしており、なぜこのような顔をしているのかと自然と疑問に思った。

彰は少し目線を下げた。それによって彼の中の違和感や、疑問はすぐさま解決されることとなった。

彼が目線を下げたことで見えた光景はあまりに胸糞悪かった。

女性はおっさんに痴漢されていたのであった。

彰はどうしたらいいのか迷っていたが、次の駅に停車するタイミングで女性は勇気を振り絞って、おっさんの手をつかみ、

「この人痴漢です!!!!」

と大きな声で周囲に訴えた。

するとおっさんは、女性に捕まれた手を振り払い、電車が停車するや否や、全力で逃げ出した。

迷っていた彰だったが、おっさんが猛ダッシュで逃げた時には、彼の体も自然と走り出していた。

彰は元サッカー部ということもあり、足が速くおっさんにすぐに追いついた。

そして、

「ライトニング・セイバーーー!!」

と叫びながら奇跡的に持っていた傘をおっさんに振りかざした。

傘はおっさんのうなじにクリーンヒットした。

・・・

・・・

・・・

ライトニング・セイバー。

それは彰が異世界転生後、初めて使えるようになった思い出の技だ。

異世界に聖剣エクスカリバーとともに飛ばされた彰は、まず始めに冒険者登録するため、冒険者ギルドへ行った。そこで冒険者登録を済ませ、報酬として一つ、技のスキルを与えられ、使えるようになったのがライトニング・セイバーであった。

ライトニング・セイバーで彰は初めてダンジョンの1階を制覇し、数多あまたのゴブリンをあの世へ葬ってきた。

・・・

・・・

・・・

そして、痴漢現場を目の前に、怒りを抑えられなくなった彰はこの現実世界でも、ライトニング・セイバーをかましてしまったのであった。

傘によるライトニング・セイバーはさほど威力はないものの、おっさんの急所を捉えたため、おっさんは気絶して倒れていた。

彰はすぐさま駅員を呼び、おっさんを拘束させた後に、ポケットからスマホを取り出し、警察に連絡する。

そして、被害に遭った女性にも一度電車から降りてもらい、警察の到着を一緒に待ってもらうようにお願いする。

女性は首から社員証らしきものをぶら下げていた。

彰は、その社員証らしきものに目をやると、

KEPT:八重樫美咲と書いてあった。

そう。これは彰からすれば、八重樫美咲と初めて対面した瞬間であった。


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