第8話
「ふぁぁ……」
それは朝の事だった。俺は香音を起こし、食卓で食事を取る事になる。登校する際は、色々と噂にならないように、別々に登校するが。
香音も幾ばくかの成長を見せ、多少、起床までの時間を短縮する事ができた。だからこうして、朝、優雅——とまでは言えないが、一応は朝食を取れるくらいの時間は捻出できるようになった。
「どうしたの? ……こーちゃん。眠そうだけど。あまり眠れてないの?」
「ああ……色々な。心臓に悪い事が多くて。精神的に良くないみたいだ」
幼馴染とはいえ、こうして可憐な美少女と一つ屋根の下で生活していると……色々と心身の負担になってくる。
全く……誰のせいだと思っているんだよ。俺は深く溜息を吐いた。
しかし、昨日のお隣さん。挨拶に来てくれたお隣さん、なんか気がかりなんだよな。確かに可愛かった。香音に負けず劣らずの美少女だ。
だが、引っかかるのはその部分ではない。もっと別の部分だ。もしかしたら俺はまた、何か重要な事を忘れているのかもしれない。
「やばっ! 時間だっ!」
物想いに耽っている時間はなかった。朝の時間は貴重なものだった。ただでさえ、香音の世話をする事で、時間は減っていくのだ。瞬く間に登校しなければならない時間になってきた。このまま行けば遅刻だ。悠長に構えている時間などないのだ。
俺と香音は登校する事になる。勿論、俺が香音の世話係をしている事を周囲に気づかれてはならない。時間をずらして、別々に登校する事になる。
だが、ここで一つ、大きな問題が起こる事になる。その問題とは、昨日、顔を合わせたあの少女の事だった。隣に引っ越してきたという、快活な印象を受けるショートヘアーの少女。
あの少女と学校で再び顔を合わせる事になるのだ。その時の俺はこんな事になるなんて、思ってもみなかったのだ。
まさか、あの女の子がうちの学園の転校生だったなんて。その時の俺は思ってもみなかったのだ。
◇
「はぁ……はぁ……はぁ」
色々とあって、時間ギリギリになってしまう。香音の世話係を買って出てからというもの、いつもこうだ。時間にも精神にもあまり余裕がない。
「内田……どうしたんだ? 最近、随分と慌ただしいじゃないか。いつもはもっと登校に余裕があったのに。最近は余裕がない。何かあったんじゃないか?」
寺山が聞いてくる。まずい。口の軽い寺山に香音の世話係をしている事を悟られると、何かと面倒だ。きっと学校内でよくない噂が立つ事になるだろう。
この年齢の男女なんて色恋沙汰に結び付けられるに決まっている。きっと学校内一不釣り合いなカップルだとか、なんだとか言われて、囃し立てられるに違いない。
「何でもないよ……最近、夜よく眠れなくて、それで朝起きれなくなってるだけさ」
「本当か?」
「本当だよ……」
嘘は必要だ。世の中真実だけでは成り立たない。優しい嘘。必要な嘘というものがある。相手に好意を持っているからこそ吐く嘘だってあるはずだ。嘘の全てが悪いわけではないと俺は思う。
「それより、知っているか?」
「何がだ?」
「隣のクラスに転校生が来たんだってよ……それが凄い美少女でさ」
「へー……美少女で転校生ね」
「あれは俺のチェックリストでも要チェックの人物だな」
「名前はなんて言うんだ?」
「御坂三咲って言うらしいぜ」
「へー……そうなんだ」
転校生か。俺の頭の中で、一致が取れた。そうか、あの時俺にぶつかってきたのは転校生の女の子だったのか。そして、香音の家の隣に引っ越してきたのも彼女だ。見覚えがあると思ったのはそうか。朝ぶつかったからか……。
だけど本当にそれだけか? 何か、重要な事を俺は忘れているんじゃないか。そんな気がしていた。
考え事をしているうちに時間は過ぎ、昼休みになる。
「やばっ……自分の飯の事を忘れた」
香音の事にかかりっきりだった為、俺は自分の食事の事を完全に失念していた。母から貰った弁当は仕方なしに香音に献上していたのだ。
「自分の飯? なんだよそれ……家族の飯でも作ってるのか?」
「い、いやっ! そういうわけじゃないけど」
俺は仕方なしに、購買にパンを買いに向かう。しかし、そこで俺は出会ってしまう。その話題になっていた転校生。
御坂三咲に。
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