第6話

 再会は突然だった。だけど俺はその時、再会を再会だと思ってもいなかった。それくらい、唐突だったし。昔の事だったから覚えていなかったんだ。


「ほら! 急ぐぞ!」

「うん!」


 それは曲がり角を曲がった時の事だった。俺達はパンを加えて登校していた。


 ドン!


「きゃっ!」


 甲高い、少女の悲鳴が響く。


「うわっ!」


 俺は誰かとぶつかった。


「いてて……」


 俺は尻餅をついた。


「痛いなぁ……ちゃんと前向いて歩いてよ……っていうか、走らないでくれてたらこんなことにもならなかったんだけどなぁ」


 確かにこっちも走っていたし、よく見もせずに曲がり角を曲がった責任はあるが、それは相手だって同じことだ。両方が走っていなければこういった事故は起きないのだ。


 そこにいたのは髪の短い、ボーイッシュな印象を受ける少女だった。美しい少女だった。長い髪の香音とは対極的な印象を受ける少女ではあったが、それでも香音に負けず劣らずの美少女である事には変わりはなかった。彼女は俺達と同じ学園の制服を着ていた。

 着方が大分ラフであり、スカートも短く、その上に胸元から谷間を覗かせているが。今はその事は大して重要な問題ではない。


「ん? ……」


 俺は視線を落とすと、彼女のスカートから白い布が覗かせていた。彼女のパンツが覗いていたのだ。


「きゃっ! 変態! 男の子って皆、えっちなんだからっ!」


 彼女はスカートを隠した。


「別にそういうわけじゃない! 不可抗力! そうだ、これは不可抗力だっ!」


 俺は不可抗力を主要する。


「そうか……こうちゃんって変態さんだったんだね」


「変態さん、言うな」


「私の下着姿でも興奮してたものね」


「してない! 興奮してないから!」


 俺は顔を真っ赤にして否定する。


「下着姿って……高校生の平日の朝っぱらから、あなた達、そんな事をしていたの!? 不純よ! そんな事を朝になるまでしてるなんて! 淫乱高校生!」


 少女は顔を真っ赤にして主張する。誰が、淫乱高校生だ。


 ――というよりも俺達は時間を見る。こうしている間にも時間が迫ってきているのだ。遅刻の可能性が高まっていく。


「やばい……それより急ぐぞ。遅刻する」


「う、うん」


「あんたも同じ学園に通っているんだろ。急がないと遅刻するぞ」


「う、うん。そ、そだね」


 少女は立ち上がった。俺達は蓬莱学園へと急いでいく。


 しかし、その時、俺は何か、頭に引っ掛かる事があった。何かが記憶の片隅に残っている。俺は何かを忘れているような、そんな気がしていたのだ。


 ◇


「「はぁ……はぁ……はぁ」」


 何とか間に合った俺達は自分達のクラス。1年のBクラスに入る。


「なんだなんだ? 二人して、息を切らして教室に入ってきて。なんかあったのか?    怪しいな」


 寺山が訝しんだ。


「何でもない……何でも」


 俺達は自分の席につく。初日からこれでは先が思いやられるな。やれやれだ。こんな毎日がこれからしばらく続くのか。


どれくらいの期間続くかはわからない。詩音さんの帰宅はいつになるのかわからないのだ。一カ月で終わるのか……はたまた、一年続くのか、それはもはや神のみぞ知る領域である。


 そのうちに担任教師が教室に入ってきた。


「起立、礼、着席」

 

 そしていつも通りの日常が始まる。香音の面倒を見なくて良いだけ、ある意味学校の方が心落ち着ける時間でもあった。


 朝のHRが終わり、授業が始まる。窓辺から俺は外の風景を眺めていた。


 考えていたのは香音との今後の生活についてでもあるが、もうひとつ考えていた事があった。朝、漫画のテンプレ展開のように、俺とぶつかったあのショートヘアーの彼女の事だ。


 気がかりだった。俺は何かを忘れているような、そんな気がしていたのだ。


 そうこうしているうちにけだるい授業が終わり、夜になる。また香音の世話係としての生活が始まるのだ。





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