第7話

 踏切が鳴っている。この場所では無い。

 そこはそこは遠く遠く静かな場所。


 昔ながらの街灯は薄笑いを浮かべ、私を呆然と見ていた。

 吊り立つ私を呆然と。


「君は綺麗だ」


 そう誰かが言った。


 そう今日はクリスマス。楽しい楽しいクリスマス。


 私は母と街までケーキを買いに行った。


 夜も明るい世界を見て、驚いた事を覚えている。


 そうあの夜だった。



 電球はギョロリと、その眼球を動かした。

 冷たい眼光だ。

 まるで、槍のよう。

 

 未来まで貫くその光は、薄笑いを浮かべる。


 血を見た。


 母の血だ。

 苺が転がっている。


 苺なのか、臓器なのか分からない。

 ただ光に照らされて赤く光っている。


「胎盤」と言ったか。


 初めて見た夜の事。


 再び「タイバン」を見つめた。


 ケーキはぐちゃぐちゃになり、赤いソースが彩っていた。


 苺のソースなんて、かかってなかった気がする。

 でも、迷いに迷って選んだケーキ。


 とても美味しそう。


 母と食べたい。


 笑顔で食べたい。

 笑顔で。


 そこまで高価なケーキじゃないかもしれない。でも母と食べるケーキはこれ以上無い、高価な時間。


 箱が転がっている。

 赤い斑点が映っている。


 尻もちをついた私は、視界が歪んでいた。


 ケーキは原型を留めていない。

 母も、また。


 赤いソースがかかっている。


 血?


 知らない。


 眼球は見通したように点滅した。


 背後に何かが居る。


 幽霊かもしれない。

 分からない。


 でも悪くはないと思う。


 吊るされたマリオネットのように、座る。


 指でなぞったケーキを口に運ぶ。


 甘い。

 とても甘い。


 美味しい。

 鉄の味がする。




「君はキレイだ」


 声が聞こえる。

 そうかな? 嬉しい。

 ありがとう。

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