第6話

 教室で少年が泣いている。

 薄い笑いに囲まれ、寂しそう。


 噂は広がる。波のように、また感染症のように。


 一人が拍手をした。

 笑い転げている。


 少年を指さした。

 虚言を言いながら。


 私は、性質を変えた。

 極性の無い分子から、極性を保有する分子へと。


 この世界に界面活性剤など存在しない。


 睨まれる事を恐れず、蛇に食われる事すらも認知せず。


「止めなよ」


 その言葉だった。


「は? 春、何言ってるか自分で分かってる?」

「分かってるよ? 貴方達こそ彼の事を知ってる?」

「知ってるよ。雪を殺したんだろ?」


 徹甲弾は分厚い鉄板すらも貫通する。


「本当に?」

「本当だろ? だって見た本人が言ってるんだらさ」

「所で春さ、アンタは教室の隅で本でも読んでたら? ここに名前負けしてる輩なんて必要ないんだよ。ウザい消えて」


 榴弾は爆発し表面抉る。


「命を軽蔑する貴女こそ消えたら? もっと学校の雰囲気が良くなる」

「おいおい。愛に向かって「消えろ」だってさ。大丈夫かアイツ」


「私は何も間違って居ないと思うけど」


「春さ、今なんて言った?」


「命を軽蔑する存在こそ消えたらどう? と言ったよ? 何か悪い?」


「悪いに決まってるよね? だってクラスの雑魚が私に向かって「消えろ」って言ったんだよ?」


「私が雑魚? なんで?」


「名前負け、コミュ力皆無、自分の意見を言えない。これって社会性を持つ生物として雑魚だよね?」


「なるほど。なら貴女も「命を軽蔑」「名前負け」「噂に流される」で雑魚ですね。倫理観的に終わってます。そう思うと対等ですね」


「ちょっといいか? 「人殺し」を守ろうとしている春の方が雑魚以前に人として終わってるんじゃね?」

「優矢、それ言えてるー」


「、、、」


「ゴミはゴミらしく廃棄されろ」

「愛、ゴミ箱持ってきたぞ」


 人は異物を認めない。また、処分しようとする。


 女子生徒がゴミ箱に頭を突っ込んでいる。頭を抑えられ、出る事を許さない。


 傑作だと、拍手が聞こえる。

 笑い声が聞こえる。


 心底楽しそうに笑っている。


 怖い。

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