第24話
ドクーグ国王の食卓へと招かれた。それはケシュラで見た、あの豪勢な食事風景とは少し違っていた。広いテーブルには先ほど帰ったと思っていたキジが席に着いていて、その他にも幾人かの男女がいた。彼らは身分もそれぞれ違うように見える。そして、王を見るなり立ち上がり、
「お待ちしておりました」
と一同頭を下げた。
「おう、おう。集まったな。皆に紹介しよう。ケシュラの王子、勇者シュリと、光の子ヤマトだ。お前たちは幸運だ。彼らに会うことができるのだからな」
おお、と低いどよめきと感嘆の声が上がった。王と王子はテーブルの端、この場合は上座というのだろうか? その定位置についた。王の近くに席が空いていて、ヤマトとシュリはそこに座るように言われた。
「伝説の勇者か。では、王子は彼らについていかねばならないのだな?」
そう言ったのは、ひげで顔の半分は隠れている、まるで山男のような人だった。
「ああ、そうだ。名誉なことだ。われら王族の誇りである」
王はそう言いながらも憂いのある表情を一瞬見せた。それも当然だろう。光と闇の戦いで、息子が命を落とすかもしれないのだから。
「ジバ、俺たちも覚悟はできている。この国をみんなで守ろう。ジュペは世界を救うために戦うのだから」
その言葉に彼らは拳を突き上げ、誓い合った。この国を守ろうと。ジバと呼ばれたのはどうやら、ドクーグの王のようだ。身分の低い者に名で呼ばれるとはどういう関係なのだろうか?
「紹介がまだだったな。ここに集まっているのは、わしの古くからの友人たちだ。一人ひとり紹介することもなかろう。さあ、食事をしようじゃないか」
食卓に着いている者たちは、楽し気におしゃべりをして、食事を楽しんでいる。
「ヤマト、お前は光の子であることをどう思っている?」
そう話しかけたのは、白ひげの老人。まるで、仙人のような白い衣服を身に着けている。
「質問の意味が分かりません」
「お前は、この世界を救う救世主なのだ。それを名誉と思うのか、それとも、つらい宿命と思うのか?」
「救世主は僕ではありません。シュリです。僕は彼を守護する者。それを名誉だと思うこともなく、つらいとも思いません。ただ、それが僕に課せられた宿命ならば、それを全うすることしか考えられないのです」
白ひげの老人はうなずいて、
「そうか、お前はそのために大切な何かを奪われてしまっているのだな」
と謎めいたことを言った。
「僕が何を奪われたというのです?」
ヤマトの声は、なぜか不安定な響きを持っていた。
「それはいずれ分かるであろう」
ヤマトのとなりに座っていたシュリは、その会話を聞いていたようだが、何も言わなかった。
「ケシュラの王子、名は何と言ったかしら? わたしったらすぐに忘れてしまうのよ」
シュリのとなりに座っていた、煌びやかな女の人が甲高い声で言った。
「シュリ」
「まあ、いい名だわ。ケシュラで美しい白い花が確かそういう名前だったと思うわ」
彼女はさらに声のトーンを上げた。
「はい。わが国でしか咲かないとても美しい花の名です」
「素敵だわ。ケシュラの王は、あなたをとても愛しているのですね」
他人ごとなのに何だかとてもうれしそうだ。
「愛……」
ヤマトがぼそりと言った。彼の表情は見ることが出来ないが、その言葉に動揺しているようだ。
「ヤマト? どうしたのだ?」
ヤマトはまだ何かつぶやいている。シュリの声は聞こえていないようだ。
「そっとしておきなさい。彼は今、自分の知らない言葉にぶつかったのだよ。すべてを知ることのできる光の子。その代わりに失ったものは大きい」
白ひげの老人は何を知っているのだろうか?
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