第23話

「ジュペよ、光の国ケシュラの王子、シュリと光の子、ヤマトだ。伝説の勇者がドクーグを訪れてきた。今まさに伝説が現実になったのだ」

「はい」

 ドクーグの王子はその優しい顔をきっと引き締めた。やはりこの国でも光と闇の戦いは伝説となっていた。誰もが知っている物語。そして、誰も知らない物語。王子はこれから起ころうとしていることに不安を抱いていることだろう。

「私が勇者のお供をするのですね。準備は出来ています。わが王国の王子たるもの、そのために鍛錬を続けてきた。この戦いがいつ起ころうとも、この国最高の剣士として腕を磨き上げております。勇者シュリ、光の子ヤマト、私をこの旅の共としてお連れ下さい」

「わたしは構わないが、ヤマト、これはどういうことなのだ?」

「はい。伝説は国ごとに少しずつ違っているようです。ケシュラでは伝えられていないけれど、どうやら、闇を討つには仲間が必要なようです。その一人が彼なのでしょう。最高の剣士ジュペ」

「最高か。その腕を見てみたいものだ。ヤマトに敵うのだろうか?」

 その言葉に、ドクーグ国の王子はプライドを傷つけられたらしく、鋭い眼光でケシュラの王子を睨みつけた。彼は優しさの中に強さを持っているように見える。

「シュリ、あなたは言葉を選ばなければなりません。言葉はときに人をひどく傷つけます。ジュペ様はきっとご傷心になられたでしょう。僕からお詫び申し上げます。あなたの眼力には、優しさと強さを感じ取りました。最高の剣士であるあなたに僕の力は及びません」

 ドクーグの王子はそれでも納得がいかないようだった。まかりなりにも、ドクーグで一番の剣士であることを自負している。その彼を超える者が、目の前にいると言われたのだ。


「ヤマト、 私とお手合わせ願いたい。よいだろうか?」

 ヤマトはその返事をしかねていた。それまで黙って見ていた王は、

「ヤマトよ、断ることは構わない。しかし、ジュペの気持ちを察してやってくれ」 と言った。それを聞いて、ヤマトはうなずいた。

「分かりました。準備は出来ております」

「ではさっそく、闘技場へ案内しよう」

 王がそう言って、部屋を出た。そのあとをドクーグの王子、ケシュラの王子、そして最後にヤマトが続いた。廊下を歩くと、城に仕える者たちが、脇により頭を下げた。表へ出ると、

「シュリ、お前とわしは高みの見物としよう」

 王はそう言ってシュリを闘技場の観覧席へと連れて行った。ヤマトとジュペは剣を構えて見合っていた。

「ジュペ様、このままお見合いしていても決着はつきません。僕からいきますよ」

 ヤマトはいつものように軽口をたたいて相手を挑発した。しかし、ジュペはそれに反応は見せない。ヤマトが間合いを詰め、剣を振り下ろした。斬るつもりというより、相手の手の内を探るような動きだった。それを察してか、ジュペはまだ剣を振らない。ヤマトを観察するようにじっと見つめている。二人は見つめあいながら少しずづ動いていた。タイミングを計っているようだ。ヤマトも今までとは違い、口をつぐんだ。おしゃべりをしていられないという感じに見える。今の彼には余裕がないのだろう。ジュペが動けば、ヤマトも動く、互いに隙を見せられない。二人の動きが止まったかと思ったら、ジュペがヤマトに向かって走り、斬り込んだ。キィンッという音がして二つの剣がぶつかった。ジュペはそのままギリギリと力でヤマトを抑え込もうとしている。ヤマトも負けじと押し返す。身体はジュペの方が大きいが、互角に張り合っている。勝負がなかなかつかなかった。お互いが本気であることも見てわかる。


「もうよかろう」

 王が彼らに呼びかけた。

「お互いの力を確認するためなのだから。そろそろ、食事をしないか? シュリが腹を空かせておるのだ」

 ヤマトとジュペは剣を下ろし鞘へと収めた。

「シュリの言うとおり、お前はなかなか強い。しかし、私は負けない自信がある。今度勝負するときがあれば、必ず勝ってみせるぞ」

「望むところです。僕はあなたを傷つけずに負かせて見せますよ」

 二人は腕を絡ませ、うなずきあった。それはお互いを認め、友となった証なのだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る