第22話

「ヤマト、お前はすべてを知ることが出来るのだろう? この国に何が起ころうとしているのだ?」

「すべてのことを知ることが出来るというのはただの言い伝えにすぎません。しかし、この国に起ころうとしていることは分かります。この国だけではなく、この世界に起ころうとしていることをお話しします。伝説とされていた光と闇の戦いが始まったのです。この国にもいずれ闇が迫って来るでしょう。それも今日、明日というところまで危機は迫っているのです。これからはこの闇に対抗する手立てを考えなくてはなりません。闇は光を恐れます。夜が来たら光を絶やさないで下さい。松明を燃やし、警備を怠らないように。闇に触れてはなりません。何が起こるか分かりませんが、大変危険です。王はとにかく明るい場所にいてください。僕たちはまだ旅を続けなければなりません。ここはそのための食料を求めてきたのです」


「分かった。十分な食料を持たせよう。しかし、今日はここでゆっくりと休んでいきなさい。そうとう疲れているように見える」

 ヤマトは先を急ぎたいようだったが、王子はうなずいて、

「はい。そうさせていただきます。ありがたい申し出ありがとうございます」

 と王の誘いを喜んで受けた。

「シュリ、ここであまり時間をとっていては多くの犠牲がでるでしょう。お疲れのようではありますが、先を急がなくてはなりません」

 ヤマトの言葉に、王子はすねたように、

「分かっている。しかし、まともな食事も取っていない。睡眠だって必要だ。わたしはお前のように頑丈ではないのだ」

 と言った。これにはヤマトもしかたなく折れた。


「分かりました。今夜はここで過ごすことにしましょう。ここへ闇が近づいています。もしかしたら今夜、何かが起こるかもしれません」

 その言葉に、王は不安げな表情を見せた。

「光の子、我が国のために、わが国民のためにできれば闇が去るまでここにいてほしい。出来ぬ相談だと分かっているが……」

 王は深いため息をついた。

「僕もできるならそうしたいです。どこの国、どこの人々も同じように尊い。すべての人を救いたい。けれど、僕の身体は一つしかないのです」

「うむ。わしはお前が気に入った。ヤマトよ、大きな宿命を背負い、多くの試練がお前を待ち構えている。それでも、前に進まなければならない。お前のためにわしができることはある。なんなりを申すがよい」

「ありがとうございます。お言葉に甘えて、まずは、シュリに何か食べ物をお与えください。彼はおなかが空いているようです」


 ヤマトがそう言ったとき、タイミングよく王子の腹の虫が鳴いた。王は笑って、食事の準備を家来に命じた。部屋のドアの前でひっそりと立っていた男はその命に従い部屋を出て行った。

「さて、食事の用意ができるまで、お前たちのことをもっと聞かせておくれ」

 王はにこやかにそう言った。そのとき、部屋のドアがノックされた。

「父上、お呼びでしょうか?」

 ドアの向こうで少年の声がした。

「ああ、入りなさい。珍しい客人がわしを訪ねてこられた」

「失礼します」

 と言って少年が中へ入ってきた。彼は王にそっくりな優しい顔立ちをしていた。

「さあ、ここへきて彼らにあいさつをしなさい」

 そう言われて彼は王の傍らに寄り、

「初めまして、私はドクーグ国王の息子、ソルジ・ア・ジュペと申します」

 そう言って軽く会釈した。

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