第19話
二人の前をまた商人の隊列が通り過ぎた。ケシュラは豊かな国で、毎日こうして商人たちがやってくるのだ。彼らは荷馬車やロバなどで商品を運ぶ。旅の途中、盗賊に襲われる危険があるためか、用心棒がついているらしい。武器を持ったい厳つい男が、鋭い目つきでヤマトたちを一瞥した。
「わたしたちはいつ、ソンシに追いつくのだ?」
「まだ旅は始まったばかりですよ。この先に何があるかは分かりません。さあ、もう出発しましょうか。先は長いですから」
ヤマトはそう言うと立ち上がり、歩き始めた。
「わたしを置いて行くな」
王子はあわててヤマトのあとを追った。
「お前は疲れないのか?」
「ええ、まだ歩き始めたばかりですから。シュリ様、これくらいで疲れていては旅ができませんよ。どこかで馬でも手に入れましょうか?」
「そうしたいな。けれど、宿場町で手に入るものだろうか?」
王子は情けない声でそう言った。身長はヤマトより大きいのに、もうすでに音を上げているとは頼りない。胸を張って意気揚々と歩くヤマトとは対照的に、王子はとぼとぼと歩く。はたから見れば、ヤマトが主でその後ろを行く王子が従者のように見える。王子は目立たないように平民の服装をしているものだからなおさらだ。道は長く続いた。そろそろ日が傾き始めたころ、道の先には建造物が見えてきた。あれが宿場町だろうか?
「おお、やっとここまで来たか。あともう少しだな」
王子がそう言ってから宿場町に着くまで、さらに一時間かかった。もう日は西の地平線に半分隠れていた。
「宿を探しましょう」
ヤマトはそう言うと、宿屋の看板が下がっている戸口へと足を速めた。
「すみません、今晩泊めていただきたいのですが」
宿屋のおかみさんが戸口まで出て来て、二人をじろりと見た。
「あんたら、金は持ってるんだろうね?」
二人が子供だと知ると、疑るようにそう言った。
「金ならある」
王子はおかみさんの言い方に少々腹を立てたようにぶっきらぼうに答えた。
「なら、先払いだよ。二人分で二千ジーニだ。食事付きなら二人で三千ジーニ」
ジーニというのはどうやらこの世界の通貨らしい。王子は使い古した麻袋から、一枚の金貨を取り出しおかみさんに渡した。彼女は意外なものを見たような顔をして、それを表裏と返して見た。
「あんたら、これをどこで手に入れたんだね。これはケシュラの金貨だ。こんな価値のあるものを何であんたらみたいな子供が持っているんだ」
「僕らはケシュラから来たのです。ケシュラ国民ですから」
「ほう。それでこの宿場町に何しに来たんだ?」
「答える必要などないだろう。わたしたちは客だ」
王子がそう言って、おかみさんの詮索をやめさせた。彼女はそのあとぶつぶつ言いながらお釣りを数え、ヤマトに手渡した。王子の偉そうな態度に腹が立ったらしい。子供のくせに、そうつぶやくのが聞こえた。
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