第18話

「では、今すぐに出発しましょう」

 ヤマトはそう言って部屋を出た。三人は王の間へと向かった。二人の男の死体は片付けられ、部屋の中のガラスやはがれた壁、いろいろな残骸はなくなっている。王の間の奥の部屋に王はいた。そこで旅の出発を告げた。

「そうか、行くのだな。早すぎるような気もするが……」

「いえ、遅すぎるぐらいです。ソンシをすぐにでも追いかけなくてはいけなかったのです。彼の覚醒が思ったより早かった。僕の誤算です」

「シュリ、お前にこれを授けよう」

 王はそう言って、壁掛けを王子に渡そうとした。

「しかし、これはわたしが即位するときにとおっしゃっていたではありませんか」

「うむ。状況が変わった。ヤマトよ、これで刺してみよ」

 王は何をしようとしているのだろう? また魔法の壁掛けの力を見せようというのか?

「はい」

 ヤマトは王から短剣を受け取り、王の持っている壁掛けに短剣を刺した。身体ごとぶつかるように壁掛けに短剣を突き刺したから、王の身体にまで刺さったかのように思えた。

「父上!」

「大丈夫じゃ」

「ええ、王には刺さっていませんよ」

 ヤマトの持っていた短剣は先が曲がっていた。もちろん壁掛けは傷一つない。

「これは王家の者が持てば力を発揮する。使う者の心に反応するのだ。今これはわしの身体をこの短剣から守るために鋼のように硬くなったのだ。普段はただの壁掛けだがな」

 魔法の壁掛けの力はまだいろいろとありそうだ。王子は壁掛けを受け取った。

「ところでヤマト、ソンシがどこへ向かったか分かるか?」

 王の質問にヤマトはうなずいた。

「では行くがよい。シュリよ、お前の無事を祈る。お前も自分の命を大切にするのだぞ」

 王と王子はかたく抱き合った。二人が離れ、王はヤマトに向かって大きく手を広げた。何を求められているのかは理解している。けれど、彼は初めて戸惑いを見せた。

「ヤマトよ」

 王の方からヤマトに近寄り彼を抱きしめた。

「お前は光の子。しかし、人の子でもあるのだ。それを忘れてはならない。お前の父の死はわしに責任がある。友であったハヤテの子。今はわしの子同然だ。早くこうしてお前を抱きしめてやりたかった。ここはお前の居場所だ、必ず戻ってくるのだぞ、シュリと共に」


 王はそう言うと二人の息子を送り出した。王子は旅の間、身分を悟られないように、平民の服を着た。そして、王は彼らに少しの食料と、金貨を持たせた。旅立ちは他の者には知らせず、王とセシルに見送られて、二人はケシュラを出た。日はちょうど頭上に来たところだった。歩き始めて数時間、他国へとつながる道を歩き続けた。その道を行き交うのは商人がほとんどで、旅人らしき者は彼ら二人だけだった。

「確かこの先には宿場町があるはずだ」

「そうですか。僕にはどこにどんな国や街があるかは知りません。ただ分かるのは、ソンシの通った道だけです」

 王子は歩くことに慣れていないのだろう。近くの木にもたれかかって、

「少し休まないか?」

 とヤマトに提案した。

「ええ、そうですね」

 二人は木陰に座り、遅めの昼食をとることにした。彼らが旅立つとき、王が持たせた食料はそれほど多くはなかった。

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