第17話
「これが光の子の力か。見事であった」
「僕はただ、光ることしかできません。まだ彼を救ってはいない。未熟で申し訳ありません」
「そうだな。しかし、あの男を救えなくても責められることはない」
ヤマトは王の言葉には反応しなかった。この騒ぎを聞きつけた家臣たちが、部屋へと集まってきた。
「何事でございますか?」
そう口にした者が、この事態に口をつぐんだ。部屋の中はまるで竜巻に襲われたようだ。中央に吊るされたシャンデリアは粉々になって、部屋の隅にあり、壁が剥がれ落ち、王の立派なイスは木っ端微塵となっていた。
「見ての通り、風に襲われたのだ」
家臣の者たちは、わけが分からず戸惑いの表情を浮かべた。そこへ王子も駆けつけ、
「父上、ご無事でしょうか?」
とあわてた様子で部屋に入ってきた。
「扉の前で、二人の家臣が首の骨を折られ絶命していました。誰があんなことを……」
「うむ。それは向こうで話そう」
王子の質問に答えることと、これからどうすべきかの重要な話し合いのため、王はセシルとヤマト、シュリを連れて奥の間に移動した。
「お前に話すことはたくさんあるが、まず、扉の前で二人の男を殺したのはソンシだ。あやつは闇の洗礼を受け、今、その力に操られておる。ヤマトそうだな?」
「はい。続きは僕がお話ししましょう。彼は僕たちを、王の命を狙っていました。しかし、僕の光を受け、一時退散するしかなかったようで、部屋中を暴れまわったあと、窓を破って出て行きました。僕と王子は彼を追わなくてはいけません。なぜなら、彼が向かった先には、必ず闇の帝王がいるからです。僕たちが倒さなくてはならない相手です」
何もかも知っていて、きっぱり断言するヤマトは誰から見ても普通ではないと感じるだろう。
「お前には分からないことはないのか?」
王はそうつぶやいた。
「もちろんありますとも。僕は神ではありません。すべてのことを知ることなどできません」
当たり前のことだが、彼が言うとそれは謙遜ではないかと思ってしまう。
「ヤマト、わたしはお前と一緒にソンシを追うのだな?」
王子の言葉にヤマトはうなずいた。
「そうか、伝説のようにお前たちは旅に出るのだな。すべては予言されていたということか」
独り言のように王はつぶやいた。
「行くのだな……。ヤマト、お前にこれをやろう」
セシルから渡された物は剣だった。
「これは人を斬ってはいない。ただの剣だが何もないよりはいいだろう。何に出くわすか分からないからな」
剣を受け取ったヤマトはそれを腰に差した。
「これもまた、父の作ったものですね」
「ああ、よく分かったな」
それにはヤマトはうなずくだけだった。
「わたしは旅の支度をしてくる。ヤマトも早く支度を済ませるのだ」
王子はさっそく出かける準備に行った。ヤマトは王とセシルに軽く頭を下げてから部屋を出た。作業場のある部屋へ戻ると、仕事用の道具袋を腰紐にぶら下げた。支度と言ってもそれ以外は何も持たない。彼はベッドへ腰かけ外を眺めた。そこへ、王子がやってきて、
「何をのんびりとしているのだ。早く荷物をまとめよ」
ヤマトは王子の方を向き、
「もう支度は出来ていますよ。それより外が騒がしいのですが、十頭の馬とたくさんの荷物はなんでしょう?」
「出かける準備に決まっているではないか」
「闇を討つための旅をするのです。僕たちが闇の動きに注意をはらうように、闇の者もまた、僕たちの動きを窺っています。あんな隊列をなして行くのでは、狙ってくださいと言っているようなものです」
王子は少々機嫌を損ねたように、眉を上げた。
「では、お前はどのように旅をするつもりだ?」
「僕とあなたの二人きりで行きます」
王子はその言葉を聞いて、それまでの意気込みが急に縮んでしまったようだ。
「そう……」
一言、消え入りそうな声で言ってから部屋を出て行った。彼はそのまま外に出て、待たせていた馬と、お供に連れて行くはずだった者たちを解散させた。それから、またヤマトの部屋に戻ってきた。
「まあ、なんだな。従者を連れずに旅をするなど考えもしなかった。わたしは世間知らずだな」
そう言って王子は軽く笑った。
「申し訳ありません。あなたには不自由でしょう。しかし、今はそんなことを言っている場合ではないのです。この世の運命がかかっているのですから。従者は連れずとも、僕があなたをお守りいたします。ご安心ください」
王子はヤマトを信じるしかなかないと思ったのだろう。黙ってうなずいた。そのとき、ドアをノックする音がして、
「今いいかな?」
そう言って入ってきたのはセシルだった。
「わたしも旅のお供をしたいのだが……」
ヤマトは立ち上がり、セシルの前に来て、
「それは困ります。王をお守りする者がいなくなります」
セシルは何やら考えているのか、少し間をおいて、
「しかし、王の身を守る者ならほら、あいつがいるではないか。名はなんといったかな? そうだ、ケイ。彼がいる」
「あの影のような男のことですね。彼は防御の術には長けているようです。特に闇に対しての結界術が優れている。しかし、戦う能力はないようです。あなたもをそれはご存じでしょう?」
「それはそうだが、お前について行きたいのだ」
「なりません。あなたはここで王をお守りするのです。あなたでなければ守れない。王にはあなたが必要なのです。僕の言っていることはお分かりですね。ここに残ってください」
これだけ強く言われたものだから、セシルも旅は諦めるしかなかった。二人の会話を、王子は黙って聞いていた。
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