第9話

「ヤマトではないか? なぜここにおるのだ」

 ヤマトの行動が理解できないのだろう。

「セシルよ。もう下がってよい。わしはこのヤマトと話がしたい。そこの二人も下がってよいぞ」

 王の言葉に従い、セシルと男たちは広間から出て行った。そして、広間に残っている者は、王とヤマト、王の斜め後ろにひっそりと、まるで空気のように控えているやせた男だけになった。


「ヤマトよ。もっと近くへ寄れ」

 ヤマトは王の前まで進み出ると跪き、

「先ほどのご無礼をお許しください。セシル様がなんとおっしゃられたかは存じませんが、王のご命令に従い、ここで剣を作るために参りました」

 そう言って頭を下げた。王は立派な髭をなでつけ、にやりと笑った。恰幅のいい体つき、大きなイスにどっしりと構えた姿には威厳がある。

「おお、そうか、喜ばしいことだ。先ほどセシルより報告を受けたが……。まあ、行き違いがあったようだ。それより、お前は剣術に長けていると聞いた。わしにもその腕を見せてみよ」

 ヤマトは一度、顔を上げたが、また頭を下げ、

「お見せするほどの価値はありません」

 ときっぱり言った。


「それはわしが決めること。王に背くことは出来ぬのだぞ」

「はい。仰せのままに」

 ヤマトは頭を下げたまま答えた。王は立ち上がり、手を二度叩いた。すると、扉の向こうで見張りをしていた先ほどの二人の男が男たちが入ってきた。

「ではヤマトよ、闘技場へ参れ。あ奴らが案内する、ついて行くがいい」


 王はそう言うと、奥へと入って行った。あの影のような男を従えて。ヤマトは屈強な二人の男にはさまれ、表へと連れ出された。緑豊かな庭、そして、いくつかの彫像物が置かれている。木々がじゃまでない程度に植えられていて、少し行くと、開けた場所に出た。目の前に見えてきたものが闘技場だろう。白いカーブのある壁に、入り口が一つ空いていて、それは黒い穴のように見える。男たちは立ち止まることなく、ヤマトをつついて先に進ませた。穴を抜けると、そこは円形の広場だった。周りは観客席にぐるりと囲まれている。一か所だけ広くなっていて、そこには立派なイスが置かれている。もちろん、そこが王の観戦する場所だろう。王の観戦場所の前まで連れてくると、男たちは任務を終えたらしく、暗い入口へと戻って行った。足音がしたのか、ヤマトがふと先ほどの見た、王の席に目を向けた。そこには王と、やせて影のような男と、セシルが入ってきたところだった。そして、王はその立派なイスに座り、そのとなりには簡素なイスがあり、そこへはセシルが座った。やせた男だけは、やはり王の斜め後ろに立っていた。


「ヤマトよ。お前は剣を持っていないのだろう。お前にそれを貸してやろう」

 あの暗い入口から、先ほどの男の一人が入って来て、赤い布に包んだものをヤマトに渡した。それを開けてみると、柄に宝石がちりばめられた高級な剣だった。ヤマトはそれを手に取り、じっと見つめ、王の方を見上げた。

「これは父の作ったものです」

「そうだ。お前の父がわしのために作ったものだ」

 鞘から剣を抜き取ると、きらりと光った。布と鞘を受け取った男は、そのまま戻って行った。

「見事なものだ」

 王は独り言のようにそう言った。ヤマトは手入れの具合を見るように剣を小手で返してはそれを眺めていた。

「よかったです。これで人の血が流されることはなかったようですね」

 ヤマトのその言葉に、セシルが何か言いたげにイスから少し腰を上げた。

「お前はわしのことを勘違いしておるのだな? 戦いは好かないし、人を傷つけることも好まない」

「しかし、戦争は起きるのです。他国による侵略を防ぐために武器が必要なのだと王はそう言いました。そして、父がどうなったか……」

「それは、わしも申し訳なく思っている。まさか、ただの鍛冶屋が命を狙われるとは思わなかったのだ。大事な友を失って、わしも心を痛めた。だからこそお前をこの城に住まわせるつもりで、一度連れてきた。しかし、幼かったお前は、どうしても嫌だと言って、城を飛び出してしまった」

「ええ、覚えています」

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