第8話

「ヤマト!」

 シンシンがヤマトの身体めがけて走り込んできて抱きついた。

「よかった。どこもケガしてないよね?」

「ええ。怪我はありませんよ」

 シンシンはほっとした表情で彼を見上げた。

「あんた、大それたことしたもんだね。あとでどんな目に遭わされるか分かったもんじゃないよ。逃げた方がいいんじゃないかえ?」

 そう言ったのは、ヤマトにはさみの手入れを頼んだぼさぼさ頭のおばさんだ。

「なぜでしょう? 僕が逃げる必要はないと思います。しかし、僕のせいであなた方に迷惑がかかるのならば、僕の方から城に出向きます。しばらく会うことができなくなるかもしれません」

 ヤマトはそう言って、仕事道具だけ持って、城に向かおうとした。

「ちょっと、あんた、本気かい?」

さっきのおばさんがヤマトのことを心配そうに言った。

「ええ、頼まれていたことですが、今すぐにはできそうもありません。本当にごめんなさい」

「まあ、それは何とかならーね。こっちのこたー気にするな。それより、自分をもっと大事にするんだよ。ここへは帰ってくるんだろうね?」

「はい、必ず」

 そう言って、ヤマトは城へと急いだ。

「急がねば」


 何を急ぐことがあるのだろうか? それはヤマトにしか分からない。裏通りを抜けて、賑やかな表通りに出ると、その道は城へとまっすぐ続いていた。大通り駆け抜けるヤマトを、あきれたように目で追う者、訝し気な視線を向ける者もいた。そんな目を彼は気にすることなく走り続けた。大通りが終わるところに、城を囲む堀があり、そこにかかる橋が下ろされている状態だったが、今まさにその橋を上げようとしている。

「待ってください」

 ヤマトは胸の高さまで上げられた橋に飛びつき、傾斜のついた橋をすべり下りた。

「何者だお前は!」

 二人の門番が長槍をヤマトの喉元に突き付けた。

「こんな入り方、僕だってしたくはなかったのですよ。ですが、橋が上げられてしまってはどうしようもなかったのです」

「そんなことは聞いていない。お前のような者がこの城に入ることは許されない。命が惜しければ、今すぐここから出ろ」

「それはできません。僕は王の命によりここへ来たのですから。あなた方はそのことを知らなかったのでしょうか?」

 二人は顔を見合わせ、何やら考えているようだった。


「僕の名はヤマト。城で剣を作らなければならないのです。先ほど、セシル様が戻られたでしょう? あの方たちは、馬に乗っていましたが、僕は徒歩で来たので、少々遅れてしまいました。さあ、ここを通してください」

「鍛冶屋のヤマトか? それなら話は聞いている。黒い髪の少年」

 怪しげなものを見るようにヤマトを見て、ひとりの門番がそう言った。

「分かってもらえたようですね。僕は急いでいますので」

 ヤマトはそう言うと、二人の門番の間をすり抜けて城内へと入って行った。門番たちはあわてて彼を追う。

 城の中をヤマトは疾走していく。彼が向かった場所は大広間。そこは謁見の間だろう。戻ったばかりのセシルはそこで今日にことを報告しているに違いない。大きな扉の両サイドには、屈強な男が二人立っていた。

「何奴。ここはお前の来るところではない」

 鋭い切っ先をヤマトに向け、そのまま喉を掻っ切ってしまいそうだ。

「失礼」

 そんな刃をヤマトは軽くかわして、目の前にある重厚感のある扉を押し開けた。

「待て、こら!」

 男たちはあわてていたようで、つんのめるように広間へと入った。王はさすがに動じる様子もなくヤマトを見つめた。王は他の人たちと違い、金色の髪をしている。王の前に跪いていた初老の男がこちらを向いた。

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