第43話

「おはようございます」

 語り部のユーリが部屋に入ってきた。そうか、ここはロンダの屋敷の一部屋だった。客人の宿泊用に用意された部屋だという。ユーリはゴドーと一緒に隣の部屋で寝ていた。

「おはよう」

「あれ? お寝坊さんがいるみたいですね」

 シュリはまだ、すやすやと静かな寝息を立てていた。

「そろそろ起こすか」

 ジュペは掛け布団を一気にはがして、ベッドへダイブした。

「シュリ! 起きろよ」

 ベッドは弾みで大きく揺れた。

「何事だ!」

 シュリは驚いて飛び起きた。

「はははっ。やっと起きたな。寝ているのはお前だけだぞ」

「もっと普通に起こせよ。びっくりするじゃないか」

 シュリはそう言いながらも、楽しそうに笑った。

「お前ら、朝から騒々しいぞ」

 ゴドーが顔を出して言った。

「飯の用意をしてくれたそうだ。お前らも早く来い」

「はい」

 僕らは声をそろえて返事をした。なんだか僕も楽しくなってきた。ここでは僕は仮面をつける必要はなさそうだ。人の顔色を窺うこともなく、彼らのようにふざけ合うことも許されるんだ。けれど、これまで、そんなことはしてこなかった僕には、彼らのようには出来そうもない。

「ほら、太郎も行くぞ」

 ジュペが僕の腕をとって歩いた。向こうの世界でも辰輝だけはこんなふうにしてくれていた。懐かしくて嬉しかった。

「うん」

 食堂には若く綺麗な女性が十人ほどいた。僕らの席も用意されていて、

「こちらへどうぞ、食事の用意が出来ていますから、お召し上がりください」

 席に着いて、食事の前の儀式を待ったが、その必要はないようで、皆普通に食べ始めた。ここにはロンダの姿がなかった。

「ロンダさんは、いないようですが?」

「あいつはまだ寝ているだろう。朝が苦手だと言っているが、そうじゃない。あいつはここにいる女たちを守るために、夜通し起きているんだ」

「それは大変だね」

 それだけここは危険な場所なんだ。ゴドーの昔話で聞いた、少女のロンダがそのまま大人になったんだ。信念を曲げず、不運な少女たちを救い、守ってきたんだ。なんてすごい人だろう。最初に出会ったときの、少し怖いと思うくらいの気迫は、これだったんだ。

「食事は済んだかい? もう発つんだろ?」

 食事を終えて、部屋で支度をしていると、ロンダが顔を出した。

「ああ、世話になったな」

「これを持っていきな。通行証と食料だよ」

「すまんな」

「遠慮する間柄でもないじゃないか」

 と言ってロンダは笑った。久しぶりに会って、もっと話したかったはずだが、彼女は余計なことは言わなかった。旅立つ旧友を、

「行ってらっしゃい」

 と送り出した。本当に強い人だと思った。いろんな思いを抱えて、いろんな感情を内に秘めて、彼女は旅立つゴドーを見送ったのだ。ゴドーもまた、ロンダの思いを受け止めているように思う。多くの言葉を交わさなくても、人は想いを伝え、受け止めることが出来るんだ。それだけ深い信頼が彼らにはある。

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