第44話

「ユーリ、君はいくつなの?」

「十三歳です。旅に出てまだ一年。未熟者ですよ」

「いや、立派だよ。僕は十二歳だ。君のように一人で旅に出るなんて、僕には出来ないよ」

「太郎は光の子だよね? 君は何でも知ることが出来て、光の力を持っているんだよね? どうしてそんなに自信がないの?」

「光の子はヤマトで、僕は向こうの世界の者だよ。今は入れ替わっている。僕はただの普通の子供として育ってきたから、ヤマトのように強い精神力もないし、戦う術も持たない。けれど、今は僕がこちらの世界に、ヤマトが向こうの世界にいるんだ。これには意味があると僕は思っている」

「そうなんだね」

 新しい仲間の語り部のユーリは、物腰が柔らかく、心地よい声に癒される。

「ゴドー、ここはどんなところなの?」

 僕らが歩いているところは、田畑が広がる農耕地帯だった。

「ブロウという名の農村。ここはボルディア家の領地だ」

「ボルディア家? 貴族ですか?」

「パスナという王国の君主が確か、アレクサンドル・ブレア・オブ・ボルディア。アレクサンドル三世だ。その第四皇子の領地がここということだ。ただの農村ではない。この辺りではまだ、領地をめぐって争いも起こるからな。農民は時に民兵して召集されることもある。そのために訓練もしているんだ。だから、ギャングの街が近くにあっても、ここには手を出す輩はいない。俺たちのようなただの旅人も、この領地は簡単には通り抜けは出来ない」

 ゴドーの言いたいことは、すぐに分かった。前から馬に乗った騎士が数名やって来た。

「お前たち、ここをボルディアの領地である事を知っているのか?」

 一番前にいた髭の騎士が言った。

「はい。私たちは旅人です。ここの通行を許可願いたい。これが通行証です」

 いつも粗暴な言葉遣いのゴドーが、こんなに丁寧に話すとは、少し驚いた。

「拝見する」

 騎士が通行証と、それに添えられた手紙を確認すると、それをゴドーに返し、

「ついて参れ」

 と僕らを先導して、大きな建物の前まで来た。

「武器と荷物を置いていけ」

 奥へと通されたが、武器を持った兵士が数人いて物々しい。

「領主がお前たちに会いたいとのことだ。しばし待て」

 僕たちのことが手紙書かれていたのか? それにしても領主が知るには早すぎる気がする。しばらくして、領主の男が入って来た。

「やあ。君たちが光の勇者ご一行だね。まあ、座ってくれ。茶の用意を」

 と言うと、ドアの向こうで待っていたのか、すぐに給仕の者が茶を運んだ。

「君たちが来る前に、ロンダからの手紙を受け取っていたんだよ。伝説の光の勇者がここを訪れてくれるとはね。僕も嬉しいよ。ああ、すまないね。自己紹介もしていなかった。僕の名はアルフレッド。まあ、知っているだろうがね。君たちの事も知りたいな」

「私はゴドー。魔術師です」

 ゴドーが自己紹介した。

「私はソルジ・ア・ジュペ。剣士です」

「わたしはケシュラ・シュ・シュリ。光の勇者です」

「僕はユーリ。語り部です」

 こんな自己紹介は初めてだった。みんな少し照れながら言っている。最後は僕だ。どうやって話そうか?

「僕は太郎です。向こうの世界から来ました。来たと言っても、この身体はこちらの世界のヤマトのもので、中身が入れ替わっているのです」

「ほう、それは興味深い。詳しく話してくれないか?」

 僕は光の子についてと、闇の生まれるわけ、二つの世界についてを、アルフレッドに説明した。

「なるほどな。不思議な話しだが、君が話してくれたことが現実に起こっているということなのだな。まあ、伝説が現実になるのだから、そのような奇妙な現象が起こることもあるだろう」

 そう言って、アルフレッドは茶を一口飲んだ。

「さあ、茶が冷めぬうちにどうぞ」

 香ばしい香りで後味の良いお茶だった。

「この村を抜けても、しばらくは僕の領地だ。安心して進むといいよ。先を急いでいるのに、足を止めてしまってすまなかったな。君たちに興味があってね。まあ、伝説の勇者には誰だって、興味はあるだろう。闇に襲われた国々の話しはここにも届いている。早く闇を討たなければ、被害はもっと広がるだろう。君たちにしか出来ないことだと知っていても、何も出来ずに手をこまねいているのはもどかしい。しかし、君たちに運命をかけるしかない。これを持っていきなさい。僕に出来ることはこれぐらいしかない」

 渡された物は、金貨の入った袋と、紋章のついた木札だった。

「ありがとうございます」

 礼を言って、アルフレッドの屋敷をあとにした。

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