第7話 過去と現在と未来

 2021年12月。

 結婚式を終え、披露宴会場から出るとマイ花嫁は急いでトイレへと向かった。

 トイレの前で待っていると、タキシード姿のきらりとドレス姿の詩愛羅しあらも隣の会場から出てきた。


「おー、詩愛羅キレイじゃん!」

「賢ちゃんこそ、馬子にも衣装ね」

「結婚式でもテンション上がんねーな、詩愛羅は」

「バカ、賢坊! ハニーがこんなに褒めるなんてテンションMAXだろーが!」

「おまえのハニー辛いな」


 まさか、同じ日に同じ式場で結婚するとは思ってもいなかった。


 俺が結婚を決め、衣装選びをしていた時にいつものようにケンカしながら幼なじみのふたりは突然現れた。


 俺とマイ花嫁がタキシードとウエディングドレスを着ている姿を見て、ふたりは明らか羨んでいた。

 そらそーだろ。どう見ても両思いなくせに頑なに付き合うことなく幼なじみスタンスを保持してきた輝と詩愛羅。


 それも、出会いから早20年。26歳ともなれば、学生ノリの幼なじみでもいられなくなるってもんだ。


 それは、唐突に始まった。


「輝」

 切り出したのは詩愛羅だった。いつも冷静でクールフェイスな詩愛羅が、俺もハッとするくらい熱っぽく輝を見ていた。


「詩愛羅」


 見つめ合う輝と詩愛羅。

 そうそう、おまえら、いいかげん付き合っちゃえよ!


「結婚しよう」


 ……は?!

 俺の混乱をよそに、あれよあれよと輝と詩愛羅は結婚を決めた。


 未来では、結婚を機に自分が永住する時代を決める項目が婚姻届にあるそうだ。


 俺たちと輝たちが4人揃って届を出したのが今朝の話。


「結婚したんだから、もう浮気はダメよ、賢ちゃん」

「俺もわざわざ浮気なんかしたくないんだけどさー、詩愛羅は未来人だから俺に響かねえんだよねー」


「私たち届出したから、今は現代人よ」

「……え?」


「やっぱり浮気しとったんか、桜井くん」

 その声に驚いて振り向いた。

「ゆきは!」

 ゆきはがいつもの笑顔は微塵もなく怒りに燃える目で俺を見ていた。


「えっ、いや、あの、違うんだよ。浮気ってほどのものでもなくて、無理めの女俺に落とせるのかなあ、みたいな。チャレンジ精神だよ! ゆきは、俺のチャレンジ精神旺盛な所が好きって言ってたじゃん!」


「浮気にチャレンジすな! 結婚は白紙だず!」

「そんなこと言わないで! 俺本気なのはマジでゆきはだけだから!」

「ほんまに?」

「本当! 俺を信じて!」


 じゃあ……と、ゆきはが長い付き合いで見たことのない邪悪な笑顔を見せる。

「もしも浮気したら、2度と浮気できない体にした上で離婚するって約束してもらいまひょ」

「なんで離婚前提なのに浮気できない体に?!」

「だって、そんな体になった桜井くんじゃあ、うちかって物足りんもん」

 ゆきはが赤くなってモジモジとうつむく。


「賢坊がゆきはと結婚できて良かった。幼なじみ4人で幸せな現在に来たかったんだ。ここに導くために俺たちがどれだけ苦労したか」

「他の子とファーストキスしてゆきはちゃんにバレたり、高校受験全敗したり、本当に手がかかったわ」

「え? どういうこと?」


「並行世界では賢坊が手を出した純情JKに刺されたりアパート爆破されたりバッドエンドばっかでさ」

「もしかしておまえら、過去に戻って違う未来を見れたりしてたの?」

「過去には戻れても未来人は現代人に影響しないから、俺たち自身が過去での行動を変えるしかなくてさ」

「賢ちゃんのためにくだらないことでケンカするのも大変だったんだから」


「え……おまえら、俺とゆきはのためにいつも邪魔してたの?」

「そうだよ、親友!」

「輝! 詩愛羅! ありがとう! おまえらこそ親友だ!」

 4人で肩を組んでいつかのように団子になる。今日は、みんなで笑いながら。


「賢ちゃん。私たちも現代人になったから、これから先の未来は見られないわ。もう未来を変えてあげることはできないんだから、浮気しちゃダメよ」


 ……あれ。本当に詩愛羅、現代人になったのかな。

 もう浮気なんかしないって気持ちがこれっぽっちも湧いてこない。


「輝、詩愛羅。やっぱり、未来人でいてくれる?」

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おまえら、さっさと付き合っちゃえよ! ミケ ユーリ @mike_yu-ri

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