第5話 賢斗、大学1年生

 パズドラにハマり、スマホを手放さなくなった2013年。

 朝、目覚めた俺は隣でまだ寝てる冬木ふゆき美緒みおを見る。昨日の学園祭、ミスコンで優勝しただけあって、すっぴんでも美人だしスタイル抜群。


 俺が貸したロンTをパジャマ代わりに着ている。

 色っぽい。

 起こしちゃ悪いと思いつつも、ロンTの中に手を入れる。


 美緒さんがふふっと笑って俺の腕をつかんだ。


「賢たん、何してるの?」

「お・も・て・な・しー」

「ええー、これが?」

「そう、これが俺の朝のおもてなしなの」

「夜のおもてなしとどう違うの?」

「試してみる?」

「ええー……うん」


 派手な顔して美緒さんが恥じらう。このギャップがいい。

「美緒さんの寝顔、超かわいかったよ」

「やだ、見たの?」

「ガン見」

「やだー、もう、賢たん」


 美緒さんが頭の上まですっぽり布団を被った。その布団をひっぺがしてベッドから落とす。


「なんで落としちゃうのよー」

「美緒さんが顔隠すからだよ。俺に美緒さんの顔見せて」

「や……やだ、恥ずかしい」

「俺、美緒さんの顔見てたいの」

「やだ、もー、なんで」

「美緒さんがキレイだから」


 美緒さんが無抵抗になった。もう2ラリーくらい抵抗してほしかったなあ。


 ピーンポーンとインターホンが鳴る。

 え? 朝っぱらから誰だろ。


「おはよう賢坊! あっ」

「これは完全にタイミングが悪すぎたわね」


 きらりが美緒さんにまたがる俺を凝視して真っ赤になる横で、詩愛羅しあらが気を利かせて目をそらす。


 ピーンポーンとまたインターホンが鳴る。

 輝がハッと何かに気付いた様子を見せる。


「今、この時代は何年だっけ」

「2013年」


 答えながら、うんざりして美緒さんから離れ壁にもたれかかる。

 このふたりはどれだけ俺の邪魔をするんだ!


「あ、やべえ。帰ろうか、詩愛羅」

「2013年? あ……学園祭の後?」

「だろ」

「あら、大変。急いで帰りましょう」


 明らかに輝と詩愛羅がこの場から元いた未来に戻ろうとしている。

 さらにピーンポーンとインターホンは鳴る。

 それを聞いて、ふたりがビクッと体を震わせた。


「待て、帰るな! 何か知ってんだろ輝! インターホン鳴らしてんのは誰なんだ!」

 逃がすものかと輝の腕をつかむ。


「いや、あの……未来のことは絶対に言えないんだよ。言った瞬間、ここに警察が来て俺捕まる」

「警察?」

「うん。自由にタイムトラベルできるようになったのと同時に警察に時空管理課ができてっから」


「賢ちゃん、おしゃべりしてないで出た方がいいわよ。じゃないと、このアパート吹っ飛ぶわよ」

「詩愛羅!」

「たぶん、ギリギリセーフ」

「だといいけど」


 ……え……吹っ飛ぶ?!


 慌てて玄関のドアを開けると、同じ1年の梨元なしもとなごみが立っていた。


「え、なんで和……約束は夜じゃん?」

「どうして賢斗の部屋に冬木さんがいるの」

「えーと……」


「あ! あの服、桜井さんの服じゃないですか!」

 その声にびっくりして見ると、バイト先の後輩、綾瀬あやせみりが俺の部屋をのぞき込んでいる。

「綾瀬ちゃんまで、なんで?!」


「もう、朝っぱらから何なの?」

 気だるげに美緒さんが玄関にやって来る。いや、今こそ布団被っててほしい。


 背の高い美緒さんが俺のロンTを着て立つと、長い足がほぼ露わになる。

 和と綾瀬ちゃんが息を飲んだのが見て取れる。


 ヤバい! これ、完全にヤバい!


「助けて未来人! 俺を助けるためにこのタイミングで来たんだろ!」

「賢坊、悪いけど俺たちは助けられないんだよ。前にタイムトラベラーが過去を変えることはないって言ったろ? 俺たちが何を言っても、現代人には影響ねえんだよ」

「だから、私がいくら賢ちゃんに浮気はダメって言っても、賢ちゃんの心には何も届かないの」


 ほんとだ、もう浮気なんてしないって気持ちがまるで湧かない。


「ひとつだけ、伝えておくわね。明けない夜はないわ、賢ちゃん」


 そう言い残し、輝と詩愛羅がフッと消えた。


 明けない……夜?! まだ朝だけど?!

 和、綾瀬ちゃん、そして美緒さんに取り囲まれ、俺史上最長に感じられる1日が始まった。

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