第3話 賢斗、中学3年生

 ドラクエにはまり、なかなか2回目のぬしさまが倒せず夢中でやりこんでいた2009年。

 俺は受験生らしく、学年で1番かわいいもりしずくと図書館で勉強にいそしんでいた。


「マジで大丈夫-? 賢斗けんと、行ける高校ないんじゃね?」

「雫もだろ。しっかり勉強して同じ高校行こうな!」

「きゃはは! 賢斗が勉強なんて、がんばれる気がしな~い」


 短いスカートで足をバタバタさせるから、見えそうで……見えない。


「雫がキスしてくれたら、俺もっと勉強がんばれるなあ」

「きゃはは! ここでー?」

「ここで。ねえ、キスしてよ。俺に同じ高校に合格してほしいでしょ?」

「も……もう、賢斗は甘えるのがうまくてずるい……」

「雫は甘えられたら弱くてかわいい」

「もう……バカ」


 雫が周りを気にしながら椅子を近付ける。この、図書館という場所でこそっとするのがまたいいんだよ。


 チュッと、一瞬だけ雫の唇を感じる。

「えー、今のはキスに入んない」

「だって、こんな所で……」

「ダメ。なんか余計にやる気なくなった。もっと、ちゃんとキスして? できるでしょ、雫」

 んん~……と、普段はギャル全開な雫が困ってるのがマジかわいい。


「もう、見られても知らないからね」

「俺は気にしないよ。だって雫にキスしてほしいんだもん」

「もう……しょうがないな……」

 そうそう、観念して思いっきり大胆に――


「聞いてよ、賢坊! 詩愛羅しあらがさあ!」

「待って、きらり。タイミングが悪かったんじゃないかしら」


 目を閉じて構えてたら、突然聞き慣れた声がした。

「輝! 詩愛羅! 超タイミング悪いわ! あと1分待てなかったのかよ!」

「1分もキスするつもりだったの?!」

 大声で言った雫が周りの注目を集め、真っ赤になって走って図書館を出て行く。


 なぜか輝も真っ赤になっている。それを詩愛羅が冷めた目で見ている。


「げ! マジ?! 中学生でキ……マジ?」

「100年後ってそんなキスのハードル高いの?」

「この時代は草食男子が流行ってると聞いたのに、賢ちゃんは肉食ね」

「俺はハンターだから」

「マジか……キ……マジか……」

「何しに来たんだよ? おまえらも受験だろ」


「そうだ! おそろいのシャーペン買って勉強がんばろうって言ったのにさ、詩愛羅がイヤだって言うんだぜ!」

「500円のシャーペンは高いわ」

「詩愛羅は俺に500円かけるのすら惜しいのかよ!」

「私はシャーペンに500円かけるのが惜しいの。しかも、特殊な芯だから替え芯も高いし」


「詩愛羅が悪いよな?! 賢坊!」

「輝よね、賢ちゃん」

「どっちでもいい! 100均でいいんじゃね?!」


 輝と詩愛羅が目を見開いてお互いを見た。

「まあ……詩愛羅とおそろいなら100均でもいっか」

「そうね。目的を見失っていたわ」

「おじゃましました」

「じゃましたわね」


 向こうには100均ないから、こっちで買って帰ろうか、と話し合いながらふたりが肩を並べて図書館を出て行く。


 ……本当に、邪魔だけをしに来たな、あのふたり!

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