第10話 

 今度は、『事件を起こさせない』を計画した。

そして隼人に一つのお願いをしてきた。六花が死ぬまで俺を過去に留めおいていて欲しいと。

かなり渋られたが、「万が一戻れなくても、消えてしまっても良いから」という俺に渋々折れてくれた。


 次に目が覚めると、二〇一三年八月十一日。

何度同じ朝を迎えても、今日起る出来事を想像すると緊張した。

記憶と同じように学校での一日を過ごし、放課後、六花は前回と同様に高校生の隼人にたのんだ。


 そして犯行時刻が近づいてきた。俺は、事件が起る現場近くの派出所に入った。

ここからは、今日一日何度も頭でシュミレーションしたとおり、警察官に慌てたそぶりで言った。

「そこで自転車事故です。人が倒れているので急いで来て下さい。」と警察官を同行させた上で男を捜した。

 前回のタイムリープで男が駅からでて来る時間と場所は覚えていた。そこへ向かって警官を誘導した。

男を見つけると、走り出しワザと男にぶつかった。男が倒れた拍子に、男は鞄を落とした。

「すみません。」俺は拾うフリをして、中身をぶちまけた。

中からは、ナイフや包丁などの凶器が次々と出てきた。

一瞬にしてその場はパニックに陥った。

男は、慌ててナイフや牛刀を拾おうとするが、あっという間に警官に取り押さえた。

抵抗する男の叫び声と、確保する警官の怒号、周りは逃げ惑う人々の悲鳴。

辺りは騒然としいた。俺は、騒ぎに紛れてその場から逃げ去った。

 なんとか、未然に事件を防げたのではないか?男は銃刀法違反で逮捕されるだろう。これで取り敢えず、しばらくは無差別殺人を起こすとは出来ないはずだ。


 それからの俺は、残された六花の時間に寄り添うことにした。

残りの夏休み六花と隼人で図書館に行ったり、カフェで勉強したり三人で過ごす時間を大切にした。

隼人の言うとおりなら、この夏の何処かで六花の命に終わりがくる。

それまで、三人で沢山思い出を作りたかった。自己満足かもしれないが。


 そして、俺は再度六花との関係について考えてみることにした。

『これだけ六花に執着しているって事は、これは愛なのか?

六花のことを恋愛対象として見ることができるかどうか?』

についてだ。

散々思案したが、結果は変わらなかった。俺はそもそも愛情と友情の違いもよく分からないし、彼女に欲情するという感情も無かった。

彼女のことは大好きだが、俺にとって愛情ではなく友情だと思う。

そんな結果を抱え、夏休みも終わり始業式を迎えた。


 『もしかして終わりなんて来ない?』と思い始めていた。しかし事件は無慈悲にも起こった。

いつものように、三人で図書館へ行った帰り。隼人と分かれた後、暗くなったので六花を送っていった。

「六花、また明日な。」

「うん。また明日。明日は模試を頑張ったご褒美にカフェで新作のケーキ食べたいなぁ。」

「オッケー。任せろ!」

「やったぁ!約束ね。」

「おう、じゃぁ気を付けてな。」

「うん!また明日ね、バイバイ~」俺は背中で六花の「バイバイ」と言う声を聞ながら軽く手を上げ歩き始めた。

何歩か足を進めた時、真横をスピードも落とさずみ車が走り去った。この先は信号だ、普通なら減速するはずだ。

おかしいと思って振り返った直後と同時にすさまじい衝突音が響き渡った。

先程まで六花が笑顔で手を振っていた場所に車が突っ込んでいた。

慌てて救急に電話しながら、事故現場に駆け寄った。確信があった、六花が巻き込まれている。時が来たのだ。


 六花の姿を探した。やっと見つけた六花の姿は、絶望的だった。六花はかなり飛ばされていた。駆け寄って抱き上げたが体は力なく、赤く染まっていた。俺は六花を抱きしめた。

「ごめん、六花。助けることが出来なくて、痛い思いさせて。もっと生きたかったはずなのに。」

そう言いながら、あふれ出る俺の涙は六花の頬に落ち、まるで六花が泣いているかのようだった。彼女は何も語ることなく去って行った。

気付くと大人になった隼人が傍に立っていた。

隼人は六花の血で真っ赤に染まった俺を抱きしめ言った。

「戻ろう。」とても静かな一言だった。その言葉を聞いて、俺は微か頷いた。

隼人は俺に何かの薬を嗅がせた。

気を失う直前に見た隼人の顔は、俺の見たことも無い苦しい顔をしていた。

「すまない。啓介の傷を癒やせない。」小さく呟いた。

俺は遠ざかる意識のなか、啓介の表情に胸が締め付けられた。

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