第11話

 隼人の気配?匂い?を感じ、目を開けた。隼人は窓辺に立ち寂しそうに、窓の外降る雨を見つめていた。その顔は生気を失い、色を無くしていた。まるで今日の空模様のようだ。


そんな隼人の横顔を見ながら、ふと気付いてしまった。

「隼人、お前は六花の死からずっと、この研究を続けてきたのか?」

隼人は意識を取り戻した俺の顔をみて、表情が緩んだ、安堵の表情だ。

「ああ」

「それって、ずっと苦しんでいたんじゃないのか?」

「そうかもしれないし、そうじゃ無いかもしれない。意識したことはないな。」

俺は思いっきり殴られた気分だった。

最低だ、俺だけが苦しんでいると思っていた。


 「それは、六花の思いに報いるため?」

「いや、違う。俺はお前のために研究を続けていた。俺はただ、お前に幸せになって欲しかった。以前のように屈託なく笑うお前の顔が見たかった。それだけだ。」

「お前の優しさに気づきもしなかった俺は、大馬鹿だな。」

隼人は自虐的に笑って「そんな善人じゃないよ、俺は。自分の欲望に忠実に動いただけだよ。俺には六花よりお前が大事だったんだ。」

 

 隼人は、慣れた手つきで煙草に火を付けた。そう言えば隼人が煙草を吸っているとこなんて初めて見た。お互いを隔てていた月日を感じ、物寂しかった。

「これが最後のチャンスかもしれないから、啓介に伝えておきたい。

お前には理解できないと思うけど、六花がお前を想う気持ちと俺がお前を想う同じだ。」

言葉を失う俺を見て隼人は愉快そうに笑った。

「大丈夫だ、お前に何かを求めていない。俺もお前と一緒、最後に自分の気持ちに終止符を打ちたかっただけだ。折角お前と再会できたとこなのに、残念だが俺は近々政府に拘束される。その前に気持ちを伝えておきたかっただけだ。自分勝手だよな。」

「拘束って、何が起っているんだ。教えてくれ!」

「お前には関係ない。何年か啓介には会えないだろうから伝えただけだ。」

そう言って妙に綺麗に笑みを浮かべた。


 急に外が慌ただしくなった。ドアが手荒くノックされ、所員が入ってきた。

「博士、急いで下さい。警察が建物を包囲しています!」

「思ったより早かったな、わかった。お前達はさっさと着替えて退避しろ。後は任せてくれ。」

職員とのやりとりから、出入り業者の制服に着替えた所員たちを逃がし、後始末はすべて隼人がするということらしい。

「博士、どうかご無事で。未来でお会いしましょう。」

「今までありがとう。最後に申し訳ないが啓介も連れて行ってくれ。」

「おい待ってくれ隼人、俺も残って手伝うよ。」

「何言っている、正直お前では足手まといだ。安心しろ、俺はこの時代からタイムリープで未来に行く。そこでお前が来るのを待っている。」

そう言って、さっきと同じ完璧な微笑を浮かべた。

俺はその微笑みに胸騒ぎを感じた。






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