第6話 

 目が覚めると昨夜飲みすぎたのか、2件目にBARから記憶が無い。

よく見ると見慣れた天井。そこは懐かしい実家の天井だ。

着ている物も懐かしい、高校時代の部屋着だ。

隼人に会っていたから、懐かしい夢でも見ているのか?しかし、夢にしてはリアルだ。状況がつかめないまま下に降りる。


 リビングには懐かし母の味噌汁の匂い。毎朝和食だったことを思い出した。

俺の知っている今の母より少し若い母が立っていた。

「おはよう。珍しく早いわね。今日は登校日でしょ、早く支度しなさい。」

テレビからは、東京で最低気温が三十度を上回った、観測始めて百三十八年で初めてといっている。今日が二〇一三年八月十一日だと分かった。

そう、この日は忘れもしない、六花が殺された日だ。

俺は夢を見ているのか。まぁ夢だとしても俺のすることは、決まっていた。

全力で六花を守る、それだけだ。六花が死なないその後を見たい。


 久しぶりに制服に袖を通し、久しぶりの通学路。コスプレをして外を歩いているようで恥ずかしかった。懐かしい顔に会うたび、懐かしさで胸が一杯になっていった。

登校して最初に探したのは、勿論六花だった。彼女は俺の記憶より痩せていた。

あの頃の俺は気が付けなかったが、やはり彼女は俺との事で悩んでいたのかもしれない。まぁこれが万が一、現実の話だとしたらだが。


 記憶と同じような流れで、その日の時間は過ぎていった。頭で何度もこの後のシミュレーションをした。『必ず六花を死なせない』この願いを実現するために。

俺は六花との外出を中止すべきだと考えていた。だから、あえて誘わないでいた。

しかし、彼女は友達に本屋に行くと話していた。

俺は焦った、本屋はあの事件現場から近い、彼女行動は予測できない。

何かあった時、一緒に居ないと守る事もできない。

でも俺があの場所に行かないと、あの男の子は殺される。

六花の命は大切だ、だからと言って他者の命を見捨てて良い訳ではない。

思案した結果、一つの作戦を立てた。


 俺は記憶と同じように六花を誘い出かけた。

記憶より少し早く学校を出て、手近な雑貨店に入った。彼女に「親戚の子に誕生日プレゼントしたいから一緒に選んで。」と頼んだ。

しばらくすると、彼女に「悪い、携帯に着信があったからかけ直してくるわ。この店で待っていてよ。」と伝えて店を出た。これで、彼女は動かないはずだ。

五分も経ったか経たないかで、悲鳴が聞こえ始めた。俺は意を決し、悲鳴のする方近づいていった。

手には朝念の為に、鞄に忍ばせたキャンプ用ナイフを握りしめていた。それを鞄で隠し、男の子を探した。

 見つけた!男の子の前方にあの男だ。急ぎ足で男に気付かれないように、近づいた。そしてナイフを両手でしっかり握りしめ、あの男の胸目がけて力一杯刺した。

しまった!胸を狙ったはずが、それた。

焦りを感じたと同時に俺の腹部に痛みを感じた。かまわず、奴からナイフを引き抜き、再度胸を狙って渾身の力で刺した。

奴の目から光りが失われ始めた。やった!止められた。


 俺は安堵で、その場に倒れこんだ。刺された傷に不思議と痛みは無い、ただ寒いのだ、凍えるように。

息を切らせ走ってきた六花は、血まみれの俺にすがりついた。

「なんで、啓介!血まみれじゃない。どうしよう。救急車。」鞄の携帯を探す六花。

手が震え上手く携帯が握れないようだった。

「寒い」俺は微かに出る声で言った。

六花は俺を抱きしめてくれた。耳元で六花の声「大丈夫よ、啓介。大丈夫。」

心地良い声に重い瞼を閉じかけた。

ふと誰かの気配、重い瞼を少しだけ開けると、俺の前に悲しい表情の隼人。あれ?

隼人制服じゃない。そもそも高校生ですらない?

「間に合わなかったか。この結果は違う。バットエンドだ。お前は死んで、六花は自ら死を選ぶ。間違えるな。」

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