第7話

 目が覚めると懐かしい天井、デジャブーか、嫌な予感だ。

慌ててスマホを確認すると、やはり二〇一三年八月十一日の登校日だった。

俺は、試されてるのか?これは現実か?実は意識不明で倒れていたりして。

俺としては、夢でも現実でもやることは一つ、六花の存在する未来へと続く道を探すまでだ。何か新たな方法はないかと考えた。

求められている事が分からない以上は、新たなアプローチを試してみるしかない。

「啓介、遅刻するわよ〜。」

「わかった〜」

時間が無い、俺はカバンに私服を詰めた。

食卓につくと、当たり前だが少し前に食べた朝食と全く同じだった。

まぁ同じ日なのだから当たり前か。

 

 あの日と同じように家を出たが、ここからは、あの日と違う。

途中、駅のトイレで私服に着替え、ショッピングモール近くのカフェでモールが開くのを待った。

 途中、六花と隼人からメール。二人共俺の不在に気付き、メールしてきたようだ。

六花には「ちょっと途中で気分が悪くなって休んでいる。多分今日はもう帰るよ。」

隼人には「悪い、頼みがある。一人の時に電話をくれ。」


 しばらくすると隼人から着信

「どうした啓介体調が悪いのか?」

「いや、あれは嘘だ。隼人に頼みがある。隼人が化学オリンピックの準備で忙しいのは知っている。でも、六花の身に危険が迫っている。」

電話の向こうで隼人の気配を感じながら続けた。

「お前だから頼んでいる。六花を学校に留め置いてくれないか?」

「六花に危険が迫っているってどういうこと?」

「今は言えない。」

「今言えないことを俺に信じろと?」

「そうだ隼人、お前なら俺を信じてくれる。」

少し沈黙があって、隼人は大きく溜息をついた。

「嗚呼、啓介は昔からそうだなんだよ、俺にノーと言わせないんだ。分かった。

何時まで学校に留め置いておけば良いいんだ?」

「そうだな、午後二時までは出来れば学校にいて欲しい。でもどうしても無理な場合は避けて欲しい場所がある。後でメールを送る。隼人、ありがとう。俺を信じてくれて。」

「当たり前だろ、『ありがとう』なんてやめろ、気持ち悪いだろ。だた、お前に危険は無いのだよな。」

「ああ、大丈夫だ。」

電話を切って、心が痛んだ。悪い、隼人に初めて嘘をついた。危害がなんて約束できない。相手は無差別殺人鬼だから。

時計を見た。丁度店が空く時間だ。俺は有り金を全てと買い物リスト持って、カフェを出た。


 犯人は、電車で現場まで来たとニュースで視た記憶がある。

下車後に人通りの多い場所へ移動して事件を起こしている。駅付近で捕まえるのがベストだ。買い物を終えた俺は、駅付近で時を待つ事にした。

待っている間、事件後のニュースを思い出していた。

犯人は、事件の動機を自身がSNSにUPしていた。


『職場で壮絶ないじめにあった。原因もはっきりしない。日増しにエスカレートするが、周りも見て見ぬ振り。溜まりかねて、上司にイジメを訴えた。

上司は蔑むような目で俺を見て、「お前にも原因があるか考えたか?社会人だろもっと上手くやれよ。」

何故?イジメを受けている俺が責められるのだ、理不尽だろ。俺は理解出来なかった。良いだろう。理不尽な世の中には、理不尽で返すだけの話だ。』


 刻一刻と時計は進み、事件の十五分前に差し掛かろうとしていた。

俺は焦り初めていた。駅の出口が違った?時間が違った?現場へ移動しようかと迷い始めていた。

 その時あの男だ!駅から出てきた男を見つけた。見間違える訳がない。憎んでも憎み足りない、男だ。俺は気付かれないように男の背後に回った。

そして、スタンガンを男に押しつけた。

急いで倒れた男の手首を結束バンドで拘束した。辺りが騒然としている。

鞄からホームセンターで買ったナイフを取り出した。


 男を刺す事はギリギリまで悩んだ。殺したくはないが、刺し場所が悪ければ死んでしまう。

この男は随分前からこの計画を立てていただろう。今はこの時は防げても、男に何の心境の変化も無ければ、先で事件を起きるだろう。

その時、俺の大事な人達が巻き込まれない保証はない。

そもそも無差別な殺人を黙認する事はできない。

だから、この男が無差別殺人なんて思いつかない程の恐怖を植え付けることにした。

 俺は、大事な命を一人だって失いたくない。暴力に暴力で対抗することに迷いはあるが、これが俺の出した結果だ。

俺は一思いに刺した。死ぬか死なないかは分からない。取り敢えずこの男に無差別殺人を起こす気を無くさせればいいのだ。


 辺りに血が飛び、悲鳴や怒鳴り声が聞こえた。

皮肉にも立場は違えど、状況はあの日と同じだった。俺は少し滑稽な気持ちになった。遠くにサイレンが聞こえる。捕まる準備はできていた。

その場に座り込み手のひらを見た、少なくとも六花の血ではない事が俺を安心させた。

あ~煙草が吸いたい。しかし高校生の俺が持っているわけもなかった。

目の前に、隼人現れた。やはり若い隼人ではない。

「お前だけいつも大人なのな。何、お前がこの世界に俺を?」

隼人は返事をしなかった。

「まぁ良いよ、取り敢えず感謝するよ。これで六花は死なないだろう?」

隼人は哀れむような目で俺を見て、首を横に振った。

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