第5話
「啓介・・・啓介!大丈夫か?」
誰かに強く肩を叩かれ過去から引き戻された。
「あぁ、隼人か、悪い、ボーとしていた。久しぶりだな。」
隼人の顔は、朝には気が付かなかったが疲労が色濃く覗えた。
「久しぶりって、朝会ったばかりだろ。」そうだった、こいつは昔から、こんな風な返しをするやつだった。懐かしさで嬉しくなった。
俺達は飯の旨い居酒屋で軽く飲みながら、近況を報告しあうことにした。
隼人は、大学で研究職についていると言った。
「昔から、何かに没頭していたよな。高校三年の時に科学オリンピック。」
そうだあの時、六花の事件で隼人は欠場したのだった。あの事件は多くの人に影響を与えたのだ。久しぶりに隼人にあったからなのか、高校生の頃を鮮明に思い出す。
「悪い、今はどんな研究なの?」
「そのうち、ゆっくり話すよ。守秘義務もあるからな。今日は啓介の近況を聞きたい。」
「俺の近況?そうだなぁ、仕事は小さいゲーム会社でプログラミング。
彼女いない歴は、年齢と同じ。勿論独身。」コミカルに言ってみた。
「そういう隼人は結婚した?」酒が進んだ俺達は饒舌になっていった。
「俺は、付き合った人はいるけど、一生を共にする相手には出会えていない。
初恋をこじらせているからな。」
「隼人の口から初恋って言葉、初めて聞くな。初恋っていつなの?」
隼人の表情が一瞬固まった?
「まぁ追々。もう一軒付き合えよ。うまいジンを飲ませてくれるBARがある。」
まぁいい追々聞こう「ああ、付き合うよ。」
二件目は隠れ家的なBARだった。店内には、小さな音で、会話を邪魔しない程度の心地よい音量でジャズが流れていた。
隼人の勧めで出されたのは、ジャパニーズクラフトジンと日本酒を合わせたものだった。意外な組み合わせだったが、驚くべき旨さだった。
クラフトジンと日本酒の組み合わせはアルコール度数的にはヘビーだったが、ジンの柑橘系の香りが口当たりを軽くしていた。
ジャパニーズジンだからだろうか、日本酒と合わせると相乗効果で香りに深みが出た。ただカクテルのヘビーさは、これからの話の重さを予見しているようだっだ。
隼人は意を決したように「啓介、お前は今生きてるって実感はあるのか?」
「なんだよ、急に。面倒な話だなぁ。」俺は『中学生かよ』と自分でも言いたくなるような最低な受け答えだという自覚があった。
「啓介は幸せをつかむ義務があるだろ。
六花の気持ちを無にするなよ。もう十分だろ、贖罪の人生は。」
「俺は贖罪なんてしていない。それは、六花に対する冒涜だ。」俺は苛立ちから、グラスをあけた。
「じゃあ、今のお前は何なんだ。胸を張って六花に言えるのか?俺は約束を果たしてるって。」
俺は言葉に詰まった。ただ目の前のグラスをあける事に、意識を集中した。
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