第4話
夏休みの登校日、隼人は翌日に控えた化学オリンピック出場準備で居残っていた。
六花と俺は二人で変えることにした。夏休み前より痩せた六花に俺は不安を感じた。
俺は思わず「何か食べていくか?六花。」
「うん。いいね!何がいいかなぁ。」嬉しそうに返事をした六花を見て少し安堵した。
歩きながら、いつもは三人で出かけるのに、今日は久しぶりで二人。何か少し気恥ずかしいような、戸惑いの空気が流れていた。なかなか店が決まらない。
俺は焦って、つい目に入ったいつものバーガーショップを指さし。「ここに、するか?」そう言って六花を見た。
「えー!いつもと同じ。」そう言って笑った六花も、気のせいか安堵の表情を浮かべているように見えた。
店に入ろうとした矢先、少し先の人混みから悲鳴が聞こえてきた。
その声は、今まで聞いた事の無いような恐怖に染まった悲鳴だった。
俺達は驚きで動けずにいた。
すると、人々が逃げ惑う、その中から男が現れた。
よく見ると、その手には血の付いたナイフを持っていた。
男はそのナイフで、更に人を刺しながら近づいてくる。俺は正気に戻った。
このままでは殺される。咄嗟に店を指差し六花に「入ろう。」と言った。六花は震え、涙ぐんだ目で俺を見て頷いた。俺はその震える背中に手を添え、店へと促した。
六花に続き俺も入ろうとした時、ふと子供の「ママー、ママー」と泣き叫ぶ声。
泣き声の方を見ると、すぐそこに幼稚園児くらいの男の子が立っていた。
パニックで泣き叫ぶ男の子は目前に迫る危機に気付いていない。
叫ぼうとしたが、かえって男の注意を引きそうだった。
間に合わない!そう思った時には、咄嗟に子供に覆い被さっていた。
俺は刺される覚悟で目を強く閉じた。しかし、待っても衝撃がない。
そっと目を開けると、確かに俺の服を血が濡らしていた。だが、不思議と痛みが無い。
顔を上げると、そこには六花の痛みでゆがんだ顔があった。
自分の血ではなく六花の血だったのだ。なんで、店に入っているはずじゃ。
男は尚も血走った目で六花を刺そうとしていた。
俺はその場に落ちていた傘で思い切り男の腹部を刺した。
最初抵抗があったが一度刺さった傘は、男の腹にスーッと入っていった。
男は動きを止め、ゆっくりと自分の腹を見た。そして俺の顔を見た。その目がゆっくりとガラス玉に変化していった。色を失っていく。俺は怖くなって、傘の刺さったままの男をけり飛ばした。
そして、急いで六花を抱きかかえた、六花の下には既に血溜まりができていた。
着ていたシャツを脱いで傷口を押さえるが、溢れてくる血はあっという間に俺のシャツを赤く染めていった。
俺は震える手で強く傷口を押さえながら、
「誰か救急車を急いでくれ、お願いだ。ああ誰か、六花を助けくれ。」
目を開けた六花は掠れた声で「啓介、怪我は無い?」と途切れ途切れで言った。
「こんな時に俺の心配かよ。なんで俺なんか庇うんだよ。」
六花は微笑んで、俺の頬に手を添えた。そして、とても愛おしそうに俺の頬を包んだ。「啓介、必ず幸せになって。約束よ。」
そう言って目を閉じようとする六花の手を俺は強く握った。
「無理だ、六花お願いだ、目を閉じるな!」
「笑って、泣かないで・・・大好きよ。」そう言って六花は目を閉じた。
「六花ーっ嫌だ!目を開けてくれ!」そこでやっときた救急車に六花は乗せられていった。
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