第3話
俺達は、駅で待ち合わせた。隼人を待っている間、過去に想いを馳せていた。
隼人に最後に会ったのはいつだろう?高校卒業以来かもしれないな、俺はあの夏からしばらくの間の記憶が曖昧なのだ。
高校時代、俺は隼人、六花、三人で一緒にいることが多かった、テスト前には誰かの家、カフェで勉強、テストが終わればカラオケ、ボーリングと遊び歩いた。
そして、高校三年の夏、俺は大事な人を失った。
七月の始め定期テスト最終日、六花は海に行きたいと言った。
隼人は化学オリンピックの出場へ向け日々勉強に取り組んでいたので、俺達は学校帰り二人で海に行くことにした。
学校帰りなので水着も無く、足だけ水につけたりしながら、何をする訳でもなく座っていた。退屈なのでは?と横を見ると、意外にも六花は楽しそうで、まぁこれも有りかと思えた。
夕方、急な雷雨に見舞われた。濡れた俺達は、近くの喫茶店で雨が上がるのを待つことにした。
六花は、ホットのカフェラテを両手で包み込んだ。冷えた手を温めるように。
俺は鞄の中にパーカーが入っている事を思い出した。
「着るか?雨で冷えただろ。」
「ありがとう。」六花は嬉しそうに受け取った。
袖を通して「啓介の匂い。」と呟いた。
俺は汗臭かったかと慌てて「マジで、もしかして汗臭いんじゃないのかよ。脱ぐか?」と聞いた。
「嫌よ、良いの。」と言った六花の顔は、少し嬉しそうな気がした。変な奴だなと俺は笑った。
帰り道、雨が上がるのを待ったせいで辺りは薄く暗くなりはじめていた。俺は六花を送って行くことにした。六花の家に向かう坂道を上りながら、志望学科について話していた。
「隼人は、東京の大学を希望してたよね。啓介はどこを第一志望にしているの?」
「俺は、情報学科なんだけど、大学はまだ迷っている。将来ゲーム会社でゲーム作りに携わりたくてさ。」
「県外の大学も視野に入っているんだよね?」
「そうだな。どうしてもS社にはいりから少しでも有利な大学へ行きたい。
六花は?」
「私は外語よ、県内の大学を志望しているわ。卒業したら、なかなか二人に逢えなくなるのね。」六花は伏し目がちに言った。
暮れゆく空と、先に待つ別れの予感に、二人の口数は減っていった。
丁度、高台の公園を通っていた時、六花は急に俺の正面に立った。
うつむいていた顔を上げ、意を決したかのように俺の目を真っ直ぐと捕らえて言った。
「私、啓介が好きよ。」
俺は状況が理解できず思わず「俺も六花のこと好きだよ。親友だから当たり前だろう?」的外れなことを言った。
六花は小さく溜息をついた。
「私の『好き』と啓介の『好き』の意味は、違うと思うの。私は恋愛対象として君が『好き』なの。啓介の『好き』は友達でしょう?」
俺は呆気にとられていた。言葉が上手く頭に入ってこない。
そんな俺のこと、お見通しかのように笑みを浮かべて言った。
「気持ちを伝えることで、私を恋愛対象として意識するきっかけが欲しかったの。」
俺は、多分いくら考えても良い答えは出せないと思った。だから今の気持ちを正直に伝えることにした。
「ごめん、俺、そういった感情を誰にも持ったこと無いんだ。下手に期待させて傷つけたくないからはっきり言うよ。六花と隼人のことは友人だと思っている。失いたくない大事な親友だ。」
「私が告白したことで、感情に変化が起る可能性は無い?」
俺は、今にも泣きそうな六花の顔を見て、「ごめん、恋愛感情がイマイチ分からない。欠陥品だな。」苦笑いで言った。
「わかった。このまま親友でいてね。啓介が恋愛感情を知らないって事は、誰かの『彼』になる心配は無いってことでしょ。」
「ああ、その心配は無い。ただ六花が親友でいることが辛くて、距離を置いて欲しいならそう言ってくれ。」
六花は激しく首を振って「親友で良いから傍にいたいの。それに未来のことは誰にもわかないわ。長期戦は覚悟よ。」
その言葉は俺に安堵と後ろめたさを落とした。六花の家まで、俺達は言葉少なく歩いた。
別れ際六花は、「来週の月曜には元の私に戻っているかね。」そう言って微笑んでくれた。「無理するなよ。」俺は小さい声で呟いた。
月曜日、登校すると六花は確かにいつもの六花だった。そして、その後何ごとも無かったかのよう日々が過ぎて夏休みに入った。
隼人は塾と化学オリンピックの準備。六花と俺は塾。各々、忙しく夏休みを過ごしていた。
以前と変わらなく感じているのは俺だけで、それが俺のエゴの基に成り立っている関係とも知らないで。
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