第2話
その日から日を追う毎に、小さな違和感が積み重なっていった。
パソコンの待ち受け画面の鳥の羽の色、同僚の鼻ピアスの位置、黒子の位置、部屋の鍵の形。小さな違和感だが、何とも言えない心細さだ。
一つ一つは小さな事でも積み重なると、ダメージは大きくなっていく。
確固たる自分が揺らぐ、揺らぎは全ての出来事に疑わしさを纏わせる。
それは、日を追う毎に俺の心を削弱化していった。
そして最初は小さかった違和感は、日増しに大きな違和感に変化していった。
ある日エレベーターに同僚と乗っていた。
ふと横を見ると同僚の目線が俺より高い。あれこいつ、こんなにデカかったか?背伸びでもしているのかと思い足下を見るが背伸びもしていないし、厚底靴を履いているわけでもなさそうだ。
「お前身長伸びた?」と問うと、驚いた顔で
「そんな訳ないよね。俺らいくつよ、成長期なんてとっくに終わっている。」
「だよな。」苦笑いの俺。俺の額を嫌な汗が濡らす。
それ以降も同僚の家族写真の奥さんの顔、売店のおばちゃんの名前。日々増え続ける記憶との相違に、おれは自分を保つ自信を失ってきていた。
俺が真当に人生を歩んでいる人間ならとっくに狂っているだろう。傍観者の俺だから、なんとかぎりぎり正気を保っている。
だが、そろそろ俺は俺自身の人間としての機能に疑いを持ち始めていた。俺の脳か、精神が壊れている?病院に行くべきかもしれない。でも、それはそれでとても面倒なことに思えた。
朝、鏡の前で身支度する俺の顔には色濃い疲労感。目の下のクマ、痩せこけた頬。まるで絵に描いたようなジャンキーだ。そんな顔を見て思わず笑いがこみ上げた。ひとしきり笑った後、どのくらい
電車を降りオフィスへ向かう途中、いつもの駅の自販機のはずなのに強烈な違和感に襲われた。
改札を出た所に、五台くらい多種多様な自販機が並んでいた、昨日までは。
それが、今日は五台全て同じ自販機。中に並ぶのは、全て同じ缶珈琲。そう、毎朝、俺が買うやつ。強烈な吐き気に襲われ、道端にしゃがみ込んだ。
狂っている、世界か俺の頭か。疑念は確信に変わった。
道端にしゃがみ込む俺の肩に、誰かが手を置いた。
「おい、大丈夫か?」
聞き覚えのある声に俺は顔を上げ、声の主を見た。そこには懐かしい顔、隼人が立っていた。
「隼人?」
「啓介、久しぶり!どうした、ひどい顔色だな。具合悪いのか?」
「あぁ、隼人、肩を貸してくれ。」
俺は隼人に支えられ、ベンチに腰掛けた。中高の同級生の隼人の顔が懐かしかった。
久しぶりに見る隼人は俺の記憶の中の隼人だった。若干老けた気はするが、違和感は無く安堵する。俺はまだ、自分が『真面』だと思えた。
久しぶりに隼人と話をしたかったので、夕方待ち合わせをした。
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