交差する想い
panda de pon
第1話
いつもの時間、いつもの電車で、出勤していた。変わらない日常だ。
つり革を握り、漠然と目前を過ぎ行く景色を見るともなく眺めていた。
あの日以来、まるで自分が膜に覆われたような、鈍い感覚に捕らわれている。
俺は車窓を眺めるように自身の人生を眺めていた。そんな俺だから、自分の身に起きている異変に気づく訳も無かった。
車窓の風景は、下車駅が近い事を知らせた。俺は重い頭を軽く振った。出社する気持ちに切り替えるためのルーチンだ。
下車後、改札へ向かいながら、いつもの駅なのに言いしれぬ違和感に襲われた。
何が気になるのだろうか?人の波に流されながら、きっと看板でも変わったのかもしれないな。と自分を納得させた。
駅から徒歩十分強のオフィス街にあるビルの十五階。ここに小さいゲーム会社がある。
そこが俺の仕事場だ。入社六年この業界では、そろそろ責任のある仕事も振られて、やりがいを感じている年齢だ、普通は。だが今の俺はそこかかけ離れていた。
ビルに入り、エレベーターの十五階のボタンを押す。
だいたい同じ時間帯で出勤する人が多い。だから、名前こそ知らないが顔は何となく見慣れているはずだった。いつもと違う小さな違和感に俺は思わず眉をひそめた。
すると、小声で「小山さんショートにしたのね。かわいい!」
「ありがとう。美容師さんに勧められて。思い切って短くして良かったわ。ストレス発散よ。」
この違和感は、彼女が髪型変えたからなのか?
十五階に着くと廊下の自販機で缶珈琲を購入、それを片手に俺はプログラマーチームの窓際席へ向かう。
「おはよう~っす。」軽い挨拶で人を交わしながら席に着く。
パソコンの電源を入れ、起動するのを待ちながらまた窓の外を眺める。この待ち時間が段々早くなる。
眼下を行き交う人を何となく流しながら、珈琲のプルタブに爪を引っかける。
開けた途端、鼻を掠める缶珈琲独特の香り。
今の俺にはこの少し安っぽさをまとった香りが、心地良かった。
「おはようございまぁす。」
声を掛けられ顔を上げる、あれ?こいつの顔なんかいつもと違う。
「おはようっす。」そう言いながら後輩の顔を見つめる。
「なんっすか、森山さん。マジマジ見つめて、何か僕の顔に付いています?」そう言いながら頬を手で拭う後輩を見て。
「いや、そんなこと無い。おかしくない。ただ、何かいつもの違うような・・・
あれ!眼鏡掛けてんじゃん。」
「嫌だなぁ、森山さん。僕はいつも眼鏡っす。」
あれ、こいつ眼鏡なんて掛けていたか?
俺は言いしれぬ不安に襲われた。
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