第5話 推しランチ
『まもなく目的地です、運転お疲れ様でした』
そう言われ、カーナビに案内されたのは、どこにでもあるようなショッピングセンターであった。
駐車場に車を停めると、怜が「行こう」というので、俺はただ怜について行くしかなかった。
2人で歩き、ある店の前で怜は立ち止まった。
その店は、韓国料理店「
中は韓国の屋台街をモチーフにしており、客席一つ一つとても凝って造られていた。
店内はそこそこ客がいたが、なんとか2人分の席を確保する事ができた。
席に座るとすぐに、怜が「私のおすすめでいい?」
とメニューを指差しながら言った。
そこには『店長のおすすめ 日替わりランチセット』と書かれていた。
俺が「うん」と返事すると、店員を呼び、2人分注文してくれた。
しばらく待っていると、周りから視線を感じた。
怜はいち早くその視線を察知し、笑顔で会釈した。
携帯を出して俺たちを撮ろうとしている人もいたが、彼女から出る人並みでないオーラを感じ取ったのか、自ら盗撮の手を緩めた。
前にも同じようなことがあった。その時も怜にこうして助けてもらったのをよく覚えている。
別にいけない事をしているわけではないので、良いと言っちゃえばいいのだが、芸能人ではない俺のことを怜は常に気を遣ってくれている。
だからそれ以外のところでは、精一杯サポートしたいので、頑張っているつもりだが…
そんな事を考えていると、最初の料理である「海鮮チヂミ」が運ばれて来た。
チヂミは海鮮の出汁を効かせた生地に、ニラなどの野菜を刻んだものを入れて焼いたものだ。おやつに持ってこいである。
甘酸っぱいタレにつけて頂く。
美味い、、。外はカリカリ中はフワフワという典型的な食レポが非常に似合う一品である。
箸が止まらず、とうとう最後の一切れになってしまった。
怜の方をチラッと見る。
怜はタレにつけないでそのまま食べている。
くっ…、素材の味を楽しんでるって所か?
俺も、、見習って、、
最後の一切れをつまみ、口元に運ぶ。しかし、ふと我に返る。
いや、目の前にこんな美味しそうなタレがあるのに無視できるわけない、、、
あと一息というところでタレの誘惑に負けてしまい、どっぷりタレを吸った極上の一切れを嗜んだ。
う、うめえ…、思わず顔に出てしまいそうだ。
味わって食べていると、次々と料理が運ばれて来た。冷麺と、キムチの盛り合わせ、大きめの鍋には真っ赤なスープとたくさんの野菜が入っており、中央にはインスタントラーメンが俺を見ろと言わんばかりの存在感を出している。
「この鍋は、プデチゲっていう韓国では大衆的な鍋料理なの、シメはラーメンなんだ」
怜がぐつぐつ湯立っている鍋を見ながら教えてくれた。
「ほうほう、美味しそう」
「食べよう」
慣れた手つきでお椀にバランスよく具材を入れて渡してくれた。
「ありがとう」
そう言ってお椀を受け取ると、いただきますと手を合わせた。
う、うまい、、キムチだけの風味じゃなくて、、なんだこの辛さは、唐辛子??
ただランチをするだけでは意味がない。ここで学んで家庭料理のレパートリーを増やしたいんだ俺は。
そんな事を考えている俺に対し、怜は黙々と食べている。
言い忘れていたが、当然めちゃくちゃ可愛い。
食べるために前屈みになり、前に来てしまう髪の毛を耳の後ろにかきあげる仕草が堪らなく好きだ。
一生見てられるわ、、これ、、。
俺の視線に気付いたのか、怜が「どうしたの?」と言った。
「いや、食べる顔が可愛くて…」
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