Episode 2 日常編

第1話 料理下手

「ん……んん……」




寒くて目が覚めてしまった。




隣のお姫様はスヤスヤ寝息を立てている。




起こさないようにそ〜っとベットから降りる。




部屋の床に足がついた。冷たい。




寝室を抜け出し、洗面所で顔を洗う。




「よしっ」




ふわふわのタオルで顔を拭き、洗面所の時計を見る。




「6:58」




今日の怜ちゃんは朝からお仕事だ。俺はほとんど在宅での仕事なので、家事全般は俺の仕事だ。



怜は分担するよ、とよく言ってくれるが、家に住まわせてもらう上に、怜より比較的時間に拘束されない仕事なので、必然的に俺の役目だ。




それでも優しいのでちょくちょく助けてくれるのだが。




「朝ご飯、、作るか」




そう思いキッチンに向かう。




腕をまくり、手を洗い、とりあえずまな板だけ置いておく。




普通ならここで華麗に野菜でも切り始めたいところだが、料理の経験はほとんどない俺は、料理動画を見ながらの調理となる。




この動画というのが物凄いよくできていて、初心者でもわかりやすくできている。




あれ、、スマホ、、、あ、ベットの横だ。




待てよ、、アラーム止めてない!!!




俺は急いで寝室に向かう、、しかし、





ーージリリリリリリリーー





時代遅れの黒電話アラームが寝室から聞こえてきた。




やばいやばい、怜ちゃんが起きる起きる!!!




急いで枕元の横のテーブルの上のスマホを取り、アラームを止める。




ふぅ……。




お姫様の顔をそ〜っと見てみる。




相変わらずスヤスヤと寝息を立てている。




……セーフ。




一安心した俺は寝室をあとにして、キッチンに向かう。




スマホで「ビギナー向け、定番朝食の作り方」と昨日事前にブックマークしておいた動画をクリックしてみる。




まずはグリルの加熱だ。最近の家電様様で、ボタン一つで完了だ。




野菜室からそれっぽい具材を取り出し、食べやすいようにカットする。それを沸騰したお湯にぶち込んで少々煮る。




『ピロピロピロピロ……』




ご飯が炊けた音だ。固まらないように、出来たらすぐ混ぜ合わせなければならない。




炊飯器の蓋についている雫を丁寧に拭き取って……と。




続いて、野菜汁に味噌を解く。終わったらそのまま一煮立ちさせる。




次はメインディッシュ、魚のつけ焼きだ。




チルドから漬けて置いた鮭の切り身を取り出し、温まったグリルに丁寧に入れて、5分待つ。




そして最後に小鉢に世界一ぴったりの最強料理『ほうれん草の胡麻和え』を作る。




これはもう事前に調理済みだ。味見もしてあるしOKだ。




ごはん、味噌汁、焼き魚、一品小鉢。




朝から過度に胃を刺激し過ぎず、適度に満足感を与えてくれる最高の組み合わせだ。日本食最高。




お姫様には出来立てを提供したい。




俺はウキウキで寝室に向かい、ドアを開けようとすると、目の前にパジャマ姿の怜が突っ立っていた。




「おお、びっくりした」




「ふふふ…いい匂いで起きちゃった」




怜はそう言うと、俺に抱きついてきた。




朝から可愛過ぎるだろ、この人。




俺は怜の頭をなでなでしながら、




「ご飯、食べま…しょう」




と言った。




怜をリビングに連行し、席に座らせた。




目の前に朝作った4点セットを並べる。




「いただきます」




パチン、と両手を合わせて、お姫様の朝食がスタートする。




本当はいちいち感想を聞きたいのが本音だが、うざいのでやめておこう。




俺も食べるか……。




まずは、ご飯、、、、。うん完璧な火加減だ。日本の生活家電業者には一生頭が上がらない。




次は味噌汁、、。こちらもクリアだ。最後に丁寧に味噌を溶いたのがポイントだ。




次はメインディッシュ、、、、、うむ。こちらも完璧。非の打ち所がない。





最後は箸休めの小鉢、、、、んん?あれあれ??




なにこれ、、、しょっぺえ、、。




俺は思わずむせてしまった。




「仁くん、大丈夫??」




怜が心配そうに言った。




「だ、大丈夫、、」




俺は急いでグラスの水に口をつける。




ふぅ……助かった。




何でこんな塩辛いんだ、、もしかして、、砂糖と塩を間違えた???




次から気をつけないと……。




あれ……なんか……嫌な予感が……。




れ、怜ちゃん、、その小鉢は、、、




と気づいた時にはもう遅く、怜の小鉢は空っぽだ。




怜は何事もなかったかのように平らげている。




あれ、、ひょっとして味音痴???




そんなわけない、、これには致死量の塩分が含まれている。目の前で息をしているということは、味音痴の可能性は極めて低い。




怜ちゃんなりの優しさか……どこまでこの人は……




俺が勝手にほんわかしていると、前から箸を置く音が聞こえた。




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