第14話 色恋体験 終編

エレベーターのドアが完全に開いた。



俺はビクビクしながら前をを見た。



「こんにちは」



中から出てきたのはこのマンションの管理人のおじさんだった。



「こ、こんにちは」



俺はわかりやすく安心した表情を見せ、言った。



管理人のおじさんは何食わぬ顔して美女をおぶっている俺に興味一つ示す様子なく、そのまま目の前を通り過ぎて行った。



俺は急いで中に入り、部屋がある14階のボタンを押す。



エレベーターのドアが閉まる。



ふぅ…助かったぁ、まじで。



あのおじさんはさすがにネットは疎そうだから安心だ。



俺はすっかり安心してしまい、肩の力が抜け、眠り姫を落としそうになったので、よいしょっとおぶり直す。



するとその振動で、おぶっている眠り姫が「うぅ〜ん」と言いながら深呼吸をする。



俺はびっくりして、そ〜っと振り向く。



怜は目を閉じている。



よし、まだ起きてないようだな。



ーーピンポーン、14階ですーー



アナウンスが流れ、ドアが開く。



よし、もう少しで、、俺の部屋だ。



俺は張り切って前に一歩踏み出そうとすると、声が聞こえた。



「ふふ、おはようございます」



怜の声だ。

 


俺はびっくりして、後ろを振り向いた。



怜がニコニコしている。



「あ、ごめんなさい、起こしちゃいけないと思って…」



俺が怜をゆっくり下ろそうとすると、




「部屋の前まで運んでください」




怜がそう言うので、部屋の前まで運んであげた。



鍵を開け、中に怜を通した。



「ちょっと、1分だけ下さい、少し綺麗にします」


俺がそう言うと、怜がペコッと会釈した。



部屋に入り、見られて困りそうなものがないかチェックした。



自分でも言うのもなんだが、結構掃除は好きな方なので、部屋はそこそこ綺麗な状態にキープしている。



冷蔵庫から急いでお茶を取り出し、怜をリビングに通してあげた。



「どこでも、ゆっくりして下さい」



と、俺が言うと、怜は部屋の端にあるソファにちょこんと座った。



部屋に沈黙が流れる。



な、なにしよう。


俺の家と言っても、仕事する部屋と寝る部屋、そして今いるリビングしかない。


普段はパソコンと睨めっこしているので、これと言っておうちでできるアクティビティもない。


怜は何も言わずにリビングのあちこちを見回している。



「え、映画とか観ますか??」


俺は言うと、怜が首を横に振る。



「ゲームしますか??」


俺は言った、しかし怜はうんと言わない。



他に、、できること、、ないかな。



そんなことを考えていると、



「隣、座って下さい」



怜が見上げるように俺の顔を見て言った。



言われるがまま、怜のとなりに少し間を開けて座った。



「遠すぎます、もっとこっち来てください」



怜がこちらを見て言った。



「え、あ、はい…」



怜に近づくと、怜の両腕が俺の右腕をがっちりホールドした。


そして俺の肩に怜の頭がちょこん、と乗った。



えええ、怜ちゃん、、、。


俺の興奮度が頂点に達している。


鼓動が早くなっているのが自分でもよくわかる。



しばらく無言でこの状態が続くと、怜が口を開いた。



「仁さんの隣に居れる人って幸せな人だなあと思います」


怜が言った。



「え、いや、、、」



解答に困ってしまう。



な、何言ってるんだ、怜ちゃん、、。



俺がダンマリを決めていると、



「部屋に2人きりで、本当に何もしないんですね」



怜が言った。



何もって、、ここで押し倒せってことか??



ひょっとして、怜ちゃん、俺のこと馬鹿にしてる?



俺だって、、それぐらい、、できるぞ、、。



やってやる、って思うが、どうしても慣れないことはいきなりやろうとしてもできる訳なく、ただ黙っているしかなかった。



やっぱり俺みたいな男に、彼女なんて…



そう思っていると、怜の腕が俺の背中に周り、そのままぎゅーっとしてきた。



れ、れ、れ、怜ちゃん、、、な、何して…



色々とびっくりしすぎて処理落ち寸前だ。



「そういう仁さんが、私は好きなんです」



怜は恥ずかしそうながらも、語気を強めて言った。



す、好き、、、怜ちゃん、、。



怜はハグをやめると、ニコッとしながら俺の顔をまじまじと見ている。



か、かわいい、怜ちゃん…。好きだ、、好きすぎる。



目の前にいるお姫様とドラマのようなことをしたいと思っていたのか、ただの男の本能なのかわからないが、正常な判断がつかなくなっていた俺は、笑顔の怜の唇に自分の唇を重ねた。



怜がびっくりしたような顔をしている。



し、しまった、、雰囲気に呑まれて、、。



怜がびっくりしたのに俺はビビってしまい、急いで怜の唇から離れた。



すると、怜が優しく抱きついてきて、離れかけた俺の唇にもう一度自分の唇を重ねてきた。



もちろんキスなどしたこともない俺は、どうエスコートしたらいいのかわからない、恋愛ドラマで見るようなイメージしか湧かない。なので、なるようにしかならなかった。



2人でゆっくり唇を重ねたり、離し合ったりしているうちに、俺を抱き締めている怜の腕の力が強くなる。



俺も応えようと怜を強く抱きしめる。



長い口付けを終え、怜の唇が離れていく。



恥ずかしそうに顔を赤らめている。



その姿が可愛くて可愛くて、たまらず抱き締める。



怜ちゃん、大好きだ。



そのあとは2人で手を握り、肩を寄せ合いながら映画を見たり、俺の作った質素な料理を2人で食べ、夜暗くなる前に、怜の家まで車で送ってあげた。



車でバイバイする時に、お別れの口付けをして、手を振りながら怜はマンションの中に消えて行った。



怜の髪の匂いも、温かい手も、優しい笑顔も、何もかもが新鮮な1日だった、怜の存在が『推し』から『恋人』に確かに変わっていったような気がした。



バイバイした後も、俺の心にはぽっかり穴が空いてしまったようだ、しばらく車の中でぼーっとしていた。










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