第12話 色恋体験 中編
俺がそう言うと、怜は前を向いて黙ってしまった。
くっ…やっぱり答え辛いか、、聞くんじゃなかった。
この後、怜の気遣いで作られた言葉をかけられると思うと、なんか辛かった。
しばらくすると、怜が口を開いた。
「私がグローバルグループにいた時は、もうほんとにレッスンも過酷で過酷で、、辛くてやめたくなる時が何度もありました。他のグループの子とかでも過酷さに耐えきれなくて、男の人と隠れて遊んでいる人もいました。私も、なんか、自分で言うのも恥ずかしいですけど、口説かれることも多かったんです。でも私のファンの方は本当に暖かくて、そんなファンの方々を絶対裏切りたくない、というか、まあそこまで業界の男性の方と馬が合わないって言うのが本音だったんですけど、特に何もなく、グループでの活動をやり終える事ができました」
怜は昔を思い出すように話した。
「それで日本に帰ってきて、アイドルを辞めて、いざ恋愛していいってなっても、なかなかそんな気分にはなれませんでした。でも、仁さんに出会った時に、何というか、すごい温かいものを感じて、私、この人となら合うかもって、まだ知り合って少しなのに、自分の中で確かにそう思ったんです」
怜の言葉は一つ一つ力がこもっていた。
これは、怜の本音かな。
こんなのオタクの妄想だと一蹴されるかもしれないが、俺もただ、自分の中にある何かが、怜とぴったりあってる気がしていた。
「お、俺も、怜さんは、他の人にはない魅力が、あると、思います…」
俺は言った。
セリフがクサい。でも本音だ。
「ありがとうございます」
怜は恥ずかしそうに顔を赤らめて言った。
「窓、開けて良いですか?」
怜がそう言ったので、俺は頷いた。
窓を開けると、1月とは思えないほど暖かく、爽やかな風が吹き込んできた。
怜は童心に帰ったように、窓の外を眺めながら、サラサラの髪を靡かせている。
そんな怜を横目に見ながら、俺は車を走らせた。
そうこうしていると、目的地についた。
ここは河口湖の近くの大石公園という綺麗な富士山が見ることができるスポットだ、学生の頃友達とドライブで来た思い出の場所であった。
車を駐車場に停めると、俺は助手席に回り、ドアを開けて、怜の手を取った。
怜は積極的な様子の俺に若干びっくりした様子だったが、すぐに笑顔に変わって、俺の手を握った。
2人でポカポカの太陽の下、大自然を目の前に歩き始めた。
散歩道の幅は、充分2人並んで歩けるぐらいはあったが、怜は俺がとぼとぼ歩いているのを後ろからついてくる感じになっている。
おかしい、、どっからどう見てもおかしいぞ。
ここは、俺が一肌脱がなければ、、男、、になるんだ、、。
そう決心すると、俺は歩く足をストップさせ、怜の方に振り返った。
怜はきょとんとしている。
ここで、「手、握ってもいいですか?」は流石にダサすぎる。こういうのは無言で、、。
そう思い、コートの袖からちょこんと出ている怜の手をとり、優しく握った。
怜は恥ずかしそうに顔を赤らめた。その顔が可愛くてたまらない。
怜の小さい手を引き、2人並んで歩き出す。
怜はまだ恥ずかしそうな顔をしている。
ここは、俺が、話題を…
「さ、散歩、気持ちいですね」
俺は前を見ながら言った。
「はい、いい天気でよかったです」
怜はニコッとして答えた。
俺は今、推しと手を繋いでる。
そう考えただけで、もう心臓がバックバクだった。
手を繋いでるだけで身体中に幸せホルモンが沢山出てくる。
25歳になって初めて味わうカップル感。
しばらく歩いていると、景色がよく見える広い場所に着いた。大きな池の水面には富士山が綺麗に反射している。
カップルや家族連れが写真を撮っている。
しゃ…写真。とりたいけど、どうすれば、、。
「写真撮りたいです」の一言、それだけ言えばいいんだ。よし、、言うぞ…。
俺は小さく息を吸い、
「あ、怜さん、、写真、撮ってくれませんか??」
俺は顔を真っ赤にしながら言った。
「いいですよ、撮りましょうか」
怜はニコッとして、ポケットから携帯を取り出した。
怜の携帯の内カメラに俺と怜の顔が映る。
ガチ緊張の俺は、それとなく顔が強張る。
「仁さん、笑ってくださいよ」
怜が俺の顔を見ながら笑って言った。
怜のその言葉で緊張がほぐれ、笑顔を作る事ができた。若干不自然だが。
怜がシャッターボタンを押す。
「撮れました」
怜が言った。
「あ、ありがとうございます」
俺はそう答えると、怜の手を握ろうとした。
すると怜が手を差し出さず、俺の顔を見て言った。
「あ、仁さん、申し訳ないんですけど…」
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