第10話 仁の想い

俺は心の中で言ったつもりだったが、残念ながら心の声は俺の声帯を通過し、怜に届いてしまっていたようだ。


「はい?」


怜が振り返り、こっちを見て言った。


「え、あ…」


まさか聞こえているとは思わず、あたふたした。


「どうしました??」


怜はそう言うと、開きかけたドアを閉めて、こっちを見た。


やばい、、なんだこの状況、、。


いや、言わなきゃ、、今日が終わると、もう。


「宮島さんのこと、、が、好きです」


うわぁ、とうとう言ってしまったよ俺。


顔から火が出ているような感じがした。


「ありがとうございます。嬉しいです」


怜はニコニコしながら言った。


え、嬉しい?OKってこと??


もしかしてファンの好きな感じだと思ってるのか?違う、ファンとかじゃない好き、なのに。


「いや、あの…」


俺は躊躇い、言葉を詰まらせた。


怜は不思議そうに俺を見ている。


ここで付き合ってください、、か?


あまりにも早すぎないか?


いや、好きなんだろ?怜のこと。


フラれてもいいじゃないか、もう、こんな男らしくない自分は嫌だ。


「あの、僕と付き合ってくれませんか?」


俺は真剣に怜の顔を見ていった。この声は、聞こえている筈だ。


「え…」


怜の顔があからさまに赤くなる。怜はその顔を俺に見せたくなかったのか、前に体を向き直した。


俺もなんか恥ずかしくなってしまい、前に体を向き直した。


車内に沈黙が流れる。


怜はフロントガラスの向こうをずっと眺め、しばらくするとようやく口を開いた。


「私、自分に本当に自信がなくて、、その気持ちは嬉しいんですけど、、このままだと宮下さんに、、甘えてばっかりで迷惑かけちゃうし…その…」


怜は言葉を詰まらせた。目には涙が浮かんでいた。


れ、怜ちゃん…。


お、俺も正直自信はない。隣で泣いているこの女性とは、住んでいる世界が違いすぎる。


自信はないけど、好きな気持ちは確かだ。


ちゃんと言葉にして、伝えないと。


「あ、甘えてくださ…い!僕なりに…その、幸せに、、えっ…と、怜さんを…」


なんで言葉にできないんだ。


俺は自分自身を引っ叩きたい気分になった。


車内に沈黙が訪れる。


怜は目に浮かべた涙をコートの袖で軽く拭うと、こちらを見て言った。


「よ、よろしく、お願いします」


え、、よろしく、、?


もしかして、成功!?


俺の脳は完全に処理落ち寸前でその場でばたんきゅーしそうだったが、何とか意識だけは繋いでいた。


「じゃあ、行きますね。今日はありがとうございました。また、連絡します。仁さん」


怜はそう言ってニコッとすると、車を後にした。


じ、仁。


怜ちゃんが初めて名前で…。


完全に魂を抜かれた俺は、しばらく動けなかったが、我に帰ると、自宅まで車を飛ばした。



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