第8話 お姫様抱っこ

あれ、おかしいな。


と思った俺は恐る恐るリビングに向かった。


そこにはパソコンを広げながら、机に突っ伏して寝ている怜ちゃんがいた。


「怜ちゃ…、あ、宮島…さん?」


俺の呼びかけにも全然反応しない。まるで日頃の疲れがどっと出たみたいだった。


それにしても、本当に可愛い顔しているなこの人は…。


改めて、怜を見てみると、上は半袖、下は履いてるか履いてないのかわからないぐらい短いズボンを履いていた。そのズボンから出てるキレイな脚、思わず凝視してしまった。


怜は相変わらずスヤスヤと寝ている。


目の前で無防備に寝てる推し、そしてオタク。


いやいや。なに考えてるんだ。


ここで何かやらかしたら、一生社会から抹殺されそうだ。


俺は我に帰った。


寒いのに、こんな格好だと、風邪ひくな。


そう思い辺りを見渡すが、毛布的なものは無い。


寝る部屋は、どこだ。


いや、何を考えているんだ。見てもらいたくない部屋もあるだろう。


居ても立っても居られなくなり、俺はとりあえず廊下に出てみた。今いた部屋以外に四つ部屋があるようだった。


そのうち玄関の方の右側の部屋のドアが半開きであった。


俺は悪いなと思いつつも、中を覗いてみると、どうやらベットルームのようだった。


とても1人で寝る大きさじゃないな、、もしかして彼氏、とかいるのかな。


彼氏いるのに、男の俺を呼ぶ筈はないか…いや、そんな感覚を持ってるのは草食系代表の俺みたいなやつだけか…。


まあそんなことはどうでもいい、俺はオタク代表として怜ちゃんを守らなければ。


リビングに戻ってみるが、怜は相変わらず寝相ひとつ変えずにスヤスヤと寝ている。


起こしちゃかわいそうだな…、でも、風邪ひくぞこりゃ。


もう、運ぶしかないか。


オタクの皆さん、ごめんなさい。


そう心の中で言い、怜を抱き抱えようと、近くに行ってかしずいた。もう至近距離すぎてやばい。


俺の鼓動はどんどん早くなる。


だめだ、モタモタしてると起きちゃうぞ、、。


怜はちょうど体育座りしながら突っ伏していたので、起こさないようにそ〜っと上体を起こして、右手で首元、左手で膝を支えた。


俺はそのまま立ち上がってお姫様抱っこの状態で、歩き出した。


やばいやばい、めっちゃいい匂いする。


俺が一歩一歩、慎重に歩みを進めると同時に怜のさらさらの髪が揺れる。


その度にシャンプーのいい香りがフワッと俺の鼻に入ってくる。


くっ、、可愛い。


集中できないのでなるべく怜の顔を見ないようにした。


怜は麻酔でもかけられたかのように、起きる素振りを一切見せない。


無事にリビングのある部屋を出て、ベットルームの前に着くと、半開きになっているドアを足でちょこんと蹴った。


力の加減が上手くいかなかったのか、俺に蹴られたドアは、大きな音を立てて壁にぶつかった。


やばい、やってしまった。起きちゃう。


俺は一瞬ヒヤッとしたが、怜は表情ひとつ変えずにスヤスヤ寝ている。


よし、今のうちに運び終えるぞ。


俺はできる限り足音を立てずに、ベットの前にたどり着いた。


膝を抱えている左腕を慎重にベットの上に下ろし、右腕で怜の頭をしっかり枕の上に乗せ、そばに置いてあった布団を肩までかけてあげた。


ふー、死ぬほど緊張した。任務完了だ。


いつまでもお邪魔するわけにはいかない、メッセージを残して、帰るとするか…。


そう思い、ベットから離れようとすると、右手にあたたかい何かが触れたのを感じた。


びっくりして右手を見ると、怜の左手ががっしり俺の手首を掴んで、怜の胸の近くに寄せていた。


え、なんでなんで、もしかして、起きてたのか??


俺は顔から血の気がなくなっていくのを感じた。しかしどうしたらいいか分からず、その場に突っ立っていた。


怜はまだスヤスヤと寝ている。


すると、ベットの奥に怜の体の半分くらいの大きさの抱き枕のようなものを発見した。


俺の腕を抱き枕と勘違いしてるのかな。


そう思い、奥にある抱き枕をこちらに持ってこようとするが、右腕をがっしり固定されているので、抱き枕まで左手が届かない。


すると、右手の先に何か柔らかいものが触れたのがはっきりとわかった。


え、なに?なにが当たった??


俺はすかさず右手を見ると、怜の胸に俺の右手人差し指と中指がのめり込んでいた。


え、何してんの、俺、、いや、今のは怜ちゃんが俺の腕を引っ張って…。


何が起こったのかよく分からず、あたふたしていると、怜の表情が変わり、「ん〜」と言いながら寝返りをして、こちらに背を向けてしまった。


やばい、今度こそ起きたか??


寝返りで腕のロックが外れた。


すると俺は人間的な本能か何なのか分からないが、やばい!と思って急いでベットルームを後にした。


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