第7話 まるでカップル
長かったようで短い撮影が終わった。
緊張から解放された、という安堵と、もう終わってしまったのかという落胆が同時にやってきた。
「ありがとうございました。お陰様で楽しく配信できました」
怜がニコニコとしながら言った。
「いや、こちらこそです。ありがとうございます」
俺も笑顔で答えた。
「お礼と言っちゃなんですけど、ご飯、食べて行きませんか?あんまり料理、得意じゃないんですけど、、母から鍛えられた肉じゃがなら作れます」
何やかんや13時を回っていた。そろそろお腹が空いてきたころだ。
家にお邪魔させてもらって、ご飯なんて、、でも、なんか楽しいし、いいかな。
「あ、じゃあ、ご馳走になってもいいですか?」
「もちろんです。気合い込めて作ります」
そう言うと、怜はキッチンに消えていった。
ーー気合いを込めて、、作ります!!ーー
怜ちゃんが、俺のために、料理、、手作りで、、。
いやいや、なに惚気てんだ、俺。
俺はリビングでパソコンを開きながら、ソワソワと料理の完成を待っていた。
怜がキッチンに消えて30分ほどしたころ、キッチンから声がした。
「宮下さーん、お待たせしました、出来ましたよ」
怜の声だ。俺は立ち上がり、キッチンに向かった。
そこにはエプロンをして、菜箸を持った怜ちゃんが立っていた。肉じゃがの鍋をかき回している。
ダイニングテーブルの上には、ご飯と味噌汁と漬け物がセットされている。
「座ってください、今持ってきますね」
「いや、なんか手伝いますよ、俺」
「良いんです、おもてなしさせてください」
怜はそう言うと、出来立ての肉じゃがを持ってきてくれた。
「いただきます」
怜は手を合わせた。
「あ、いただきます」
俺もすかさず手を合わせた。
あつあつの肉じゃがを口に運ぶ。
「どうですか?お口に合いましたか??」
怜がこっちを見て俺の反応を待っている。
「お、美味しいです」
俺は精一杯笑顔で答えた。
味はぶっちゃけどうでも良い、怜ちゃんと、怜ちゃんの家で、2人きりで、一緒にご飯を食べているっていうことが幸せすぎて味覚が働かない。
俺がゆっくり食べているのに対し、怜ちゃんの食うスピードは比較的早かった。
ご飯の時って、相手を待たせちゃならんよな、、いや、これはカップルの場合か、、いや関係ない。早く食べよう。
俺は咀嚼音を立てすぎないように最大限の注意を払いながら急いで食べた。
俺の小さな努力は実を結び、怜が終わるスピードにぴったりと追いつくことができた。
「ごちそうさまでした」
怜が手を合わせて言った。
「ごちそうさまでした」
俺もすかさず手を合わせて言った。
家で一緒にゲームさせてもらって、ご飯までご馳走になるなんて、、今更になって烏滸がましく感じてきた。
なんかできる事はないか、、いや、でも人の家だし、下手にするのもよくないかな、、。はっ、そうだ。
「宮島さん、あの、僕に皿洗いをやらせてください!」
俺は怜の顔を見て言った。
「いや、全然大丈夫ですよ、ゆっくりしててください」
怜は申し訳なさそうにこっちを見て言った。
だめだここで折れては、、。
「いや、やってもらってばかりで、今日、、本当に楽しかったので、、やりますよ、全然」
全然ってなんだよ、と言って後悔したが、
「優しいですね、じゃあお願いします、本当に洗うだけで大丈夫なので…」
と、怜はにっこり笑って言った。
「私、向こうでちょびっと仕事してるので、終わったら声かけてください」
と、怜はリビングを指して言った。
「はい、わかりました」
俺は食器を重ねて、キッチンの流しまで持って行った。
蛇口を捻ると、温かい水が出てきた。
改めてよくキッチンを見渡してみると、大量のスーパーの惣菜のケースがゴミ箱にたくさん捨てられてあった。
本当に忙しいんだな、、怜ちゃん。それなのに、俺なんかと、、。
俺は皿を洗いながら今日という時間を過ごせた事を心の中で感謝した。
そんなに多くはない皿を洗い終えると、水回りを適当に掃除した。
「終わりました〜」
俺はリビングまで聞こえる大きさの声で言った。
しかし10秒ほど経っても返事がない。
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