第6話 お邪魔しちゃいます
ーーーガチャーーー
ドアがそ〜っと開いて、その小さい隙間から怜の顔がちょこんと出てきた。
「おはようございます、どうぞ上がってください」
怜はニコニコしながら言った。
「あ、お邪魔します、、。」
玄関に入り、靴を揃えて、用意してくれていたスリッパを履いた。
廊下はピカピカに掃除されていた。新築ということもあって、壁も綺麗だ。
あんなに忙しいのに、一体いつ掃除しているんだろうか、、業者さんでも呼んでるのかな。
そんなことを考えていると、突き当たりの部屋の前に着いた。
「どうぞ、入ってください」
怜が扉を開けてくれた。言われるがままに部屋に入った。
その部屋は、都心の街並みが一望できる大きい窓のある部屋であった。
中身は庶民の部屋そのもので、ブランドものなどはあまりないようだ。怜が現役時代に出ていたバラエティでお宅訪問的な企画があったが、その時も質素な部屋で、ファンが「親近感が湧く」とかそんなこと言ってたのを覚えている。
下手に貴族ぶらない怜が、俺の中では数ある推しポイントの一つであった。
「荷物、適当に置いてくださって結構です。飲み物、アイスティーで大丈夫ですか?」
キッチンの奥から怜の声が聞こえる。
「はい、お気遣いありがとうございます」
俺はキッチンに聞こえるような声で返した。
荷物を壁に寄せてぼーっと突っ立っていると、
「座って楽にしてください」
と言われたので、フカフカのソファの端に浅く腰掛けると、怜がアイスティーのグラスをテーブルに置いてくれた。
「あ、ありがとうございます」
俺はペコッと頭を下げた時、ソファに衝撃を感じた。
びっくりして、横を見ると、怜が隣に座っていた。
おおおおお、近い近い、、。。
俺は緊張で鼓動が速くなった。自分の顔が熱くなっているのがわかる。
「今日の配信なんですけど、一緒にフィートナイトをやりたいんです。宮下さん、やられたことあります?」
フィートナイトとは、世界的に大流行しているFPSだ。俺は普段から戦闘系のゲームはやらないので、正直に打ち明けた。
「いや、やったことないです、すいません」
「あ、そうなんですか、いえいえ、全然気にしないでください、じゃあ違うのにしましょうか…」
怜はそう言い、困った顔をしていたので、
「いや、やりましょう。興味あったんで、今、ダウンロードしますね」
俺は怜の顔を見て言った。
「あ、ありがとうございます」
怜の顔が笑顔になった。ホッとしたようだ。
俺は持ってきたバックからパソコンを取り出し、テーブルの上に置くと、電源ボタンを押した。
しばらくして、パスワード入力画面が出てきた。
背景は推しである怜の卒業コンサートの時の写真だ。
パソコンを立ち上げる時にいつも幸せを頂戴していた。
ん、、、待てよ。
と違和感を感じた時はもう手遅れだった。
「背景、卒コンの時のですね」
怜が隣から俺の画面を見て言った。
やってしまった。完全に油断していた。俺の顔が一気に赤くなる。身体中から汗が吹き出しそうだ。
「あっ…、す、すいません」
俺は消え入りそうな声で言った。これはドン引き間違いない。
「いや、嬉しいです、私のこと応援してくれている人がいるっていうのが」
怜が嬉しそうに言った。
恥ずかしくて怜の顔を直視できない俺は音速でパソコンのセキリュティを突破し、ゲームのダウンロードを完了した。
「終わりました」
俺は顔を真っ赤にしながら言った。
「ありがとうございます、じゃあやりましょうか」
怜はそう言うと、慣れた手つきで機材をセットした。
「じゃあ、撮影はじめますね、、」
怜がこっちを見たので、俺は大きく頷いた。
怜が録画ボタンを押す。
「は〜い、みなさんこんにちは、本日もフィートナイト、やっていこうと思います、今日はゲストが来てくれています、宮下仁さんです。先日共演させていただいたご縁で、今日一緒にやってくださることになりました!」
怜が元気よくそういうと、笑顔で俺の方を見た。
「あ、こんにちは、宮下仁です。今日はお邪魔してます、精一杯頑張ります!」
俺は噛まずに言い切った。このテンプレも前日に練習済みだ。
「じゃあ今日はダブルスでやります!」
そういうとゲームは始まった。
怜はさすがの腕前だったが、俺は初心者感を拭う事はできず、何回もキルされた。同時に俺は推しと一緒にゲームをしている、という現実に何回もキルされた。幸せな時間だった。
配信が2時間ほど続いた時、
「じゃあキリがいいので、今日はここでお開きにします。また見てくださいね〜」
そういうと、怜はカメラに向かって手を振った。
俺もすかさずカメラにバイバイを送った。
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