30.そして誰も居なくなった

 

 勝者は敗者に要求できる。


 その権利が認められている。



「くそー、そのスキルズルいぞ! キョウ」



 おれは基礎的な訓練をサボり、ルーデに勝利した。




 おれは己に認められた権利に基づき、ルーデに質問した。



「どうやったらモテるんすか?」



 おれ以外もアール、シド、ヤック、それに先生や他の訓練生たちがルーデを囲み、耳を傾けた。



「大事なのは余裕だよ」






 以上?




 は?







「え~皆さん、ルーデ君は真実を話す気がどうやらないらしい」

「なんでだよ」


「ふざけんな! それだけのはずないだろ!!」


 みんなも怒った。


「少々甘い顔をし過ぎたようだ。ルーデ君、これ以上隠しても君のためにならないよ?」

「そういう必死過ぎる所がダメなんだよ」

「エェ?」


 なぜか突き刺さるものがある。



 余裕か。




 いや、無いから困ってるんですけどぉ!!?





「やぁ、すごい有様だな。何かあったのか?」


 この声は。


「おいおい、ルーデ一人をもみクシャにして、それは訓練じゃないだろ?」


 ウィズが現れた。


 狩りから戻って来たところだろう。

 色気ゼロの狩り装備だ。

 だが脚が長いのか、腰が細いのか、腕の長さなのだろうか、肌の白さか、眼が惹きつけられる。

 キリリとした大きな切れ長の目。

 スッと一筆引いたような眉。

 小さく形のいい鼻。

 品のいい口元。


 ずっと見ていたいと思う。


 あ、眼が合った。


「ウィズ‥‥‥さん」

「ああ、キョウシロウ。久しぶりだな」


 そう言ってウィズがサッと両手を隠した。


「ごめんて! あれは、ごめんて!!」

「いや、キョウシロウは何をするか読めないから」


 信用されてない!


「何をしているんだ?」

「キョウが、モテる方法を知りたいって」


 ルーデ、チクリやがった。


「皆さん、ルーデ君はお仕置きが必要なようです。地下牢に放り込んで置きなさい」

「軟弱だな。男がそろいもそろって恋愛の話か」


 そう言いながらスッと輪の中に入りはるウィズはん。


「キョウシロウ、モテる方法が知りたいならルーデに聞いても無駄だ」

「あ、ウィズ、やめ――」

「私に恋愛相談している女々しい奴だからな」

「お、お前―!!!」


 騙したの?


「お前が勝手にモテるとか言うからだ」


 お前もモテ方知っているみたいな感じ出してただろ。

 恥を知れ。


 モテ方を女に聞いたらそれは反則だよ。


 それはやってはいけない禁じ手だ。


「なんだモテたいのか、キョウシロウ」

「はい!!」



 教えてもらえるものなら聞きます!



「いいかキョウシロウ。男は強くなって女に付いて来いって言えればそれでモテる」

「未開地の部族か!!」

「そうだけど?」


 そうだった!!


「え、じゃあルーデはすでに誰かに言ったの? おれに付いて来いって」

「‥‥‥言った」


 言ったのコイツ!

 すげぇな!!

 尊敬する!!


「おおお、それで?」

「『勢いだけの人はヤダ』って」


 おれはウィズを見た。


「結果は言う相手によるだろ」

「ひでぇ!! 相手も言っておいたじゃん!!」

「相手って?」


 言いよどむルーデ。


「あ、パン職人のコナンの妹じゃない? いつもじっと見てた」


 アールが口を滑らせた。

 ああ、あの子ね。

 おっとりした感じのお姉さんだ。

 20歳ぐらいじゃないか、あの子?


 ルーデはおっとり系お姉さんが好きなのか。

 いいな。


「ルーデ、紹介しろよ」

「そう言うアールは料理番のスキットの娘といつもいるだろ!」

「いや、あれは家が隣なだけだし!」


 ああ、小さくて元気いっぱいな感じのかわいい子がいたな。

 アールは年下が好きなのか。


「アール、紹介せい」

「いつも一緒っていうならシドだってアールの妹と――」


 ああ、いつもアールの軽薄さを謝ってくれるあの子か。

 妹だったのか。

 軽薄なアールと違ってしっかりしているからお姉ちゃんかと思ってた。


「腐れ縁だ」

「紹介しろ? いいだろ?」


「だいだいヤックも――」


 コイツもか!?


 ああ、ヤックが畑仕事を手伝ってるあの子か。

 大人しそうな女の子だ。

 恥ずかしがり屋なのかすぐ隠れてしまうためおれもよく見たことは無い。



「紹介しろ。挨拶だけでもさせて? ねぇ、いいでしょ?」



 村の同世代の女の子は少ない。

 こいつらは自分たちだけ仲良くしていた。


 仲間だと思っていたのに。


 いや、仲間だと思っていたのはおれだけだったようだ。



「くそーウィズに相談したのが間違いだった」

「人のせいにするな。一回失敗したぐらいでなんだ。勢いだけだと思われたなら強くなって出直せばいいだろ。それにモテる男ならお手本がいるだろ?」


 誰だ?


 みんなも首を傾げる。



「キョウシロウは最近大した奴だと評判だ」

「おれ!?」

「ルーデもキョウシロウのおかげでかなり強くなったようだな」

「まぁね。でもコイツ全然訓練を――」


 ルーデが消えた。


 どこに行ったんだろ?


「スキルについての理解がすごい。一つのスキルで応用ができるなんて知らなかった」

「いや~そうかな」

「村のみんなもキョウシロウに一目置いている。希少なものや情報を惜しみなく分けてくれて」

「キョウはただ常識が無いだけなんじゃ――」


 アールまで消えた。

 どうしたんだ?


「それにバルトとカーシャのことも‥‥‥」

「あの二人がどうかした?」

「二人が結ばれたのはキョウシロウのおかげだと聞いたぞ」

「違うな。そいつはバルトが恨めしくて家に居られなく――」


 シド。

 お前のことは忘れないよ。


「バルトが恨めしいって、そうなのか? もしかしてカーシャのことを?」

「いや、全然」

「キョウシロウはカーシャのこと影でメスゴリラって――」



 ヤックが帰らぬ人となった。



「カーシャは美人だと思うが。狙っている男も多かった。まぁバルトが好きなのはみんな知っていたから何もなかったが」

「ふ~ん」


 狙っているといえばあなただろ。


 さっきから周りのみんながチラチラとウィズを見ている。


 その度に消しているんだが。


「そういうウィズこそ、誰かいないの?」

「え?」


 こういうこと聞いていいんだっけ?

 わからん。


「ほら、ウィズはかわいいしモテるでしょ?」

「そ、そんなことは無い!」

「え、かわいいのにモテないの? どっかヤバいの?」


 性格悪いの?


「ち、違う。別にかわいくないし! モテもしない」

「嘘だぁ!!」


 すごく動揺しているじゃないか!!

 小刻みに揺れてるぞ。


「う、うるさいな。私は村長の娘だから、軽々しく只人と付き合うことはできないんだ」

「そうなの? 身分的なこと?」


 というかなぜ只人限定?

 只人が好みなのか?


「いや、父は立場があるから、結婚には森にいる獣人の長の許しがいる」

「そうなんだ」

「そうだ。認められるには強くないといけないんだ」


 なんだろ、ウィズを賭けて男たちが勝ち抜き戦でもするんだろうか。


 おれ、勝てるかな?


「早い話、森に行って長に認められた男が私の相手だ。私がどう思っているかは関係ない」

「そ、それでいいの!?」

「良くはない。でも仕方ない‥‥‥」


 ウィズも女の子だ。


 いくら強くても「オデ、ニンゲン、クウ」みたいな化け物とは結婚したくないだろうな。



「そっか‥‥‥」

「そうだ。早い者勝ちだ」

「いや、そんな安売りみたいに言わないでよ」

「まぁ、今は森の獣人との関係が良くない。だから挑戦する者もいない。よっぽど勇気が無ければな」



 確か、森の獣人たちは只人がフラノに住むのが嫌なんだっけ。



「でもさ、ここが交易都市になって只人がたくさん来るようになるのはずっと先なんでしょ? できるかもわからないし」



 ちょっと折り合いが悪いってだけだと思っていたけど。



「う~ん‥‥‥でも、キョウシロウのおかげで確実に早まってはいるよ。魔力障壁があれば都市化が現実的になるし、魔獣の特に多い山の麓の森から木材が調達できるようになって土木建築が捗ってる」


 あれ?

 対立を煽ってないか?



「そ、それって余計なことだった!?」



 ウィズがにこりと笑った。



「キョウシロウが来てからいいことばかりだ。ガドガとルンガルシフは木が手に入って仕事に打ち込んでいるし、アンブロシスも魔力障壁の作成に張り切っている」

「おれのおかげ?」

「キョウシロウのおかげだ」

「おれって役に立ってる?」

「ああ、とても!」


 なんだろ。


 二人きりで褒められるとドキドキする。


 初めて会ったときはもっととっつきにくい人だと思ってたのに。



「もうすぐ家もできるんだろ?」

「ああ、らしいね。ようやくおれも村の一員だ」

「キョウシロウはとっくにフラノ村の仲間だよ」


 そう言ってウィズが隠していた両手を見せてくれた。


 おれは差し出されたその手を握った。



「お、おれ、強くなるから!!!」

「へっ!!」

「いや、あの、おれが強くなって!!! その、ね? あの‥‥‥」



 見切り発車停車します。



「それじゃダメだぞ、キョウシロウ。さっき教えただろ?」

「え?」

「そのセリフの続きは強くなったと証明してから、ね?」



 なるほど、奥が深い。


『おれに付いて来い』


 これは本当に強くないと言えない。

 というか、森に行って獣人と勝負でもして、勝たないと強いって言いきれないよね。



 強いと証明しろという圧。



「はい。がんばります」


 もう告白したようなものじゃないか?


 しかも失敗してね、これ?



「家ができたらごはんをつくりに行ってあげる」

「あ、うん。ありがと」



 うれしい。うれしいよ。

 でもこれ、ウィズさんに付いていきます。頼りにしてます!!


 って感じだな。



 強いってなんだろ?




 そんなおれの悶々とした心の内を知ってか知らずかウィズはおれに好きな料理を聞いてきた。

 自信があるそうだ。


 悶々としてたのにもう晴れやか。



 女の子がおれのために好きなものを作ってくれるなんて。



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