29.『転移・結界』『転移・砲』
訓練場の先生は持ち回りだ。
狩りに出られる大人が順番で見てくれる。
ルーデがひと際強くなったのに触発されてか、他の三人も一層真剣に訓練に臨んだ。
魔力を使った身体能力の強化。
武技と呼ばれる体技の会得。
個人技だけではなく連携を意識した戦い。
そういうことをしているらしいと聞いた。
おれ?
おれはそんな地味なことはしない。
だって最強のスキルを持っているんだから。
「おい、キョウシロウ!! またサボってやがるな!! お前はとにかく体づくりだと言っただろ!」
「人聞きが悪い。おれは瞑想していたんだ」
「決意はどうした! 強くなるんじゃなかったのか?」
「男子3日会わざれば刮目してみよって言葉がありましてね」
「たぶん意味違うんじゃないか?」
本当にただサボっていたのではない。
おれなりにルーデに負けた敗因を探ってみた。
ルーデに負けたのはルーデの速さに対応できなかったから。
それに主力攻撃『転移・榴弾』が避けられてしまったからだ。
そこでまずやったのが基本に立ち返ること。
求めたのは速さと手数だ。
おれはスキルを分解して工程に分けることはもうやった。
そこで、今度はコマンドで整理することにした。
コマンドとは要するに、おれの意志で操れる部分のことだ。
転移の扉を開く場所を決める→コマンド【扉の位置】【扉の向き】【扉の数】
転移対象に魔力を込める→コマンド【込める対象】【魔力量】【込める対象の数】
フォースフィールドで転移対象を包む→コマンド【包む対象】【包む方向】【包み方】
転移の扉が開きテレショック
転移先に転移の扉が開きテレショック
転移完了
コマンドは単体か組み合わせで効果を発揮する。
例えば【扉の数】を単一にして、魔力を【込める対象の数】を複数にすれば『転移・草薙』となる。複数の物を同時に転移できる。
じゃあ【扉の数】を複数にして魔力を【込める対象の数】を単一にしたらどうなるのか。
そういう実験をした。
ちなみに一つの物を複数の場所へ転移させた場合はバラバラになる。
転移は威力過剰で魔力消費が多いことも課題だ。
【扉の数】を増やすと魔力の消費もデカくなる。単純に【扉の数】と魔力を【込める対象の数】を増やして『転移・榴弾』をたくさん発動させると、一回で魔力が足りなくなる。
魔力消費が少なく、早い攻撃をおれは模索し、発見した。
簡単な話だ。
転移の扉が開き、テレショックが発生する前に攻撃ができれば、『転移・榴弾』より確実に速い。
そうなるとフォースフィールドを応用するしかない。
だがこれは他人にかける場合、触れるとうまくいかないというデメリットがあった。
いやデメリットがあるからとそこから先をよく考えて来なかった。
問題はフォースフィールドが自分以外の魔力に触れると形成に失敗するのはなぜか。
フォースフィールドは展開後、大黒狼のスキルを弾いた。
つまり魔力を受けても対抗できる。
おれはこう考えた。
魔力と魔力は反発し合う。もしくは干渉し合う。電波みたいなもの。
だがその結果として起こした事象自体は魔力に干渉を受けない場合もある。
ラジオの内容は電波の良し悪しで変わらない。
ならば確実に、それも戦闘中に魔力を纏うこともある相手に対してどうフォースフィールドをかければいいのか。
答えは自ずと見えてきた。
『転移・虚空』のようにギリギリではなくもっと大雑把に箱をイメージすることにした。
複雑な人型ではなく、常に一定の形だ。
防御として考えていたフォースフィールドには多様なコマンドある。
【包む対象】を相手にすれば拘束が可能。すぐに酸欠で無力化できる。
【包み方】【包む方向】を工夫すれば進路を阻む壁、または鋭利な武器と化す。
フォースフィールドは空間を対象にすれば見えない壁になる。
これが突然現れれば相手は対処できない。
破壊できない壁で囲んでいく。
しかも、魔力の消費も抑えられるから同時発動も可能。
これを『転移・結界』と名付けた。
戦法としては相手の進路をフォースフィールドで狭め、拘束。
または『転移・榴弾』を確実に当てる。
突っ込んで来た相手には薄いフォースフィールドを差し向けて串刺しも可能。
訓練では枷のように形を変えて使うことにした。
この練習をしていてあることを発見した。
強力なフォースフィールドの壁はテレショックを跳ね返す。
当然と言えば当然。そもそもテレショックの源は異次元の扉の中身だ。
それに耐えるためのフォースフィールド。
異次元から発生した膨大なエネルギーはフォースフィールドの壁で跳ね返り、指向性を持った。
「お~い、キョウ。久しぶりに対戦しようぜ。先生もいないし」
「待った。ぼくが相手だ。武技のコツが掴めてきたからね」
「いやおれがやる」
「待てよ。一番強くなったのはおれだ」
「『転移・砲』」
おれの正面にあった地面は抉れ、岩はバラバラになり、木は薙ぎ倒れ、壁を貫通した。
「んな‥‥‥なんだ今の‥‥‥!!?」
四人とも唖然としていた。
一番成長したのはおれだ。
「よし、ルーデ。勝負すっか」
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