28.断固たる決意
槍を構えたルーデ。
穂先はおれに向いている。
「お前ら三人は良いのか?」
アール、シド、ヤックに聞いた。
分かっていない様子だ。
「ルーデが独占している情報は早い者勝ちだろ? おれから挑戦していいのか?」
「お、おい、キョウ‥‥‥」
フフ、おれが『転移』だけの男だと思った?
言葉もまた強力な武器となる。
これが男の結束に背く行為の代償だ。
バルトは気が付かなかったようだが、ルーデは身をもって知るだろう。
さっきまで仲間だと思っていた奴らに裏切られる恐怖を。
「ハハハ、キョウ、そんな口車に乗せられると思っているのかな?」
「ふざけんな。体力を削って有利になろうとしてるだろ。死ね」
「考えが卑怯だよな、キョウは」
そう言って三人がルーデを囲んだ。
「おい、お前ら!!」
「でも早い者勝ちってのはあるよね!」
「抜け駆けは確かに良くない」
「隠し事は無しにしようぜ!」
ルーデは槍で牽制する。
アールは剣、シドは投げナイフ、ヤックは斧を武器にしている。
さぁ、その三人相手ではスキルを使わざるを得ないだろう。
使え。
ルーデの魔力量は分かっている。
『槍術』は槍の技能を向上させるスキルだ。
しかし魔力量の少ないルーデは常に発動させることはできない。
ここぞという場面で一回。
それも数十秒間しか持たない。
「おりゃああ!!」
「ぐわぁぁあ」
「くそぉ」
「そんな‥‥‥」
ルーデは槍を振るい、友人たちを手にかけた。
「お、お前‥‥‥こいつらは仲間じゃなかったのか! なんでこんなひどいことするんだよ!!」
「嫌な言い方するな」
計算違いだった。
まさかここまで成長していたとは!
「ふぅ、キョウとの訓練のおかげで、スキルを使わなくても前より上手く動けるぜ」
し、しまった!!
おれは敵に塩を送ってしまっていたのか!!
「スキル発動時の理想的動きを魔力を使わず再現する。お前のアドバイス通り訓練して正解だった!!」
「ハァ‥‥‥期待外れだ。体力を削ることもできないとは。やれやれ、お前たちは邪魔だ。おれが相手をしよう」
満を持して、真打の登場だ。
強くなったのはお前だけではない。
「『転移』で逃げようとしても無駄だ!!」
ルーデはおれが『転移』を発動する前に攻撃を仕掛けてきた。
『槍術』スキルは魔力を使って身体能力を高めている。
その動きを応用し、移動の足さばきだけに魔力を消費する『槍術・飛来』だ。
だがそれは読んでいた。
ルーデの槍は空を切った。
おれは至近距離で攻撃体勢に入ったルーデを見た瞬間、目いっぱい後ろに飛んだ。
着地を考えない思い切りのジャンプでとりあえず攻撃の間合いから脱出できる。
どうせ『転移』するのだから体勢はどうでもいいという開き直りから編み出した絶対回避術、いわば『自由回避』だ。
『自由回避』からはもちろん『転移』に繋げる。
転移の扉の位置、方向を制御すればどんな体勢からでも好きな体勢で着地できる。
万が一不意打ちされた時を想定して、自分が優位に立てる体勢を整える。
おれは木の陰に隠れた。
「クソ、相変わらず気持ち悪い使い方だな!!」
ルーデがきょろきょろと辺りを見渡す。
こちらには気づいていない。
「この形になった時点でおれの勝ちだ。『転移・榴弾』!!」
テレショックがルーデを襲う。
「何度も同じ手食うかよ!」
「何!」
外した!
ルーデは遠心力を付けた石突で、地面を叩いた。
砂煙が舞った。
これでは目視できない。
「『転移・榴弾』」
テレショックで砂煙を吹っ飛ばす。
ルーデの姿は見えない。
だが、訓練場の地面を叩き続けるわけにもいくまい。
砂煙が晴れたらおれの勝ちだ。
魔力量には限りがある。
ちなみに魔力回復薬を使うのは対戦形式の訓練では禁止だ。
魔力回復薬がありならキズ薬も霊薬もありだし、何なら遠見の水晶だってありになって勝負にならない。
今、『転移』一回。
『転移・榴弾』を二回。
魔力量は半分くらいだ。
下手に魔力量を消費したら不利になる。
ルーデの狙いは魔力切れ。
誘いには乗らねぇぜ。
待とう。
いや! 違ぁぁう!!
おれは訓練場の中に『転移』で戻った。
訓練場を囲うようにある草木はおれが隠れられるようにルーデも隠れられる。
見失った時点でコッチのアドバンテージは無くなっていた。
あいつはやはり見当たらない。
「出て来い、卑怯者!! 男らしく正々堂々勝負しようじゃないか!」
「「「お前が言うな!」」」
仲間たちからの声援を受け、おれはルーデを迎え撃つ覚悟を決めた。
「いい度胸だ!」
ルーデが突進してきた。
「クッ、『転移・榴弾』!!」
ルーデはおれの『転移・榴弾』のタイミングを完全に把握している。
上手く避けられてしまう。
『槍術・飛来』はやはり厄介だ。
狙いを定めにくい。
魔力はもう残り少ない。
ならば!!
『転移・闇討ち』だ!!
自分自身を囮に背後を取る。
そして――
「延髄もらったぁぁぁ!!!」
延髄蹴り!!
「がはぁぁ!!」
硬い感触が頬を打った。
え?
痛い。
ナニコレ。
「ぎゃふん!!」
「へっ、そろそろお前のやりそうなことも読めて来たぜ」
石突で打たれた。
「あがが」
「ハハ、きれいに決まったねぇ。ハハハ!」
「無様だな」
「というか、キョウが獣人と接近戦できるはずないよな」
痛い。
「あがが」
「あれ、おい、ヤバくないか」
「動かないね」
「キズ薬ぶっかけろ」
「いや顎が外れてるよ。先生に見せないと」
バカな。
『転移』は最強なんだ。
なのにどうして負けた!?
技に溺れていたのだ。
最強のスキルも要は使い手次第。
「お前ら、またおれのいない所で勝手に対戦したな。こういうことがあるから大人がいない所で―――」
「先生!!」
「な、なんだ? キョウシロウ、お前も同罪だからな」
「おれ、強くなりたいです」
「今、そんな話はしてないぞ」
おれは決意した。
「おれ世界で一番強くなります! そしてモテる男になる!!」
「反省してないな!!」
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