27.よそ者の居場所

 あの夜の慟哭から一週間。


 おれは孤独な生活を続けていた。


「なに黄昏てんだよ。家の手伝いするって言うから泊めてやってんだぞ」

「ごめんなさい」


 おれは訓練で対戦した獣人の一人、ルーデの家に厄介になっていた。


「キョウシロウ君が来てくれて助かってますよ。ルーデは全然家の手伝いをしてくれないから」

「そんなことないよ。訓練以外はやってるだろ」

「アラ、そうかしら? すぐ遊びに行ってしまうじゃない」

「うるさいなぁ。手伝うよ」


 ルーデの伯母さんは優し気で穏やかな方だ。

 温かい家庭って感じがする。


 おれは心の平穏を手に入れた。


「ごめんくださーい、キョウシロウ君います?」

「あら奥さん、おはようございます。キョウシロウ君?」

「おはよう。草石鹸が切れちゃって」

「はいはーい、いま持っていきますよ」


 草石鹸は主婦の味方で好評だ。

 そんなわけでご近所でも評判がいい。




 二人でお手伝いを終わらせて訓練場に向かう。


「キョウって不思議だよな。読み書きができていろいろ知ってるのになんでこんな村に住もうとしてるんだ?」

「こんな村って‥‥‥ここは良いところだぞ」

「もっと大きい街とか都市に行きたくないのかよ」

「お子ちゃまめ、わかってないなぁ」


 まぁおれもここ以外知らないけど。


「なんだよ。街にはいろいろなものがあるし、キョウは只人なんだから仕事だってあるだろ」

「ここには街にないものがあるし、仕事が何かが大事じゃない。何を目的に生きるかが重要だ」

「じゃあキョウの目的って何だ?」


 おれは空を見上げた。


 雲の重なりが空の高さを際立たせている。


 鳥の鳴き声しか聞こえない。


 穏やかだ。



「『転移』を極めて面白おかしく楽しく平穏に暮らすことかな」



「なんだそりゃ? 結局何するのかわからないじゃん」

「む‥‥‥それは検討中なんだよ。そういうルーデは何かやりたいこと無いの?」



「おれは街に行って、傭兵になる!」



 ほう、結構現実的な目標だな。

 でも獣人ってこの世界だと差別されているんじゃないか。

 それに傭兵ってイメージ悪いな。


「この村に残れば兵士になれるんじゃない? いずれ大交易都市になるんだろ?」

「はぁ? いつの話だよ。そんなのずっと先だろ」

「そっか」


 十年後ぐらいか?

 話は進んでいるって聞いたけど。

 わからん。


 タイミング的に今の南北の有力者が信用できるから進めている話らしい。

 政変が起きたり力関係が変わったらおじゃんだ。

 100年後ってわけでもあるまい。


 どれほど現実的に計画が進行しているんだろうな。



「それに傭兵だって、立派な仕事さ。武功を立てれば名声が手に入る」

「そうなの? 傭兵の名声って、悪名じゃない?」


 略奪して儲けるんじゃね?


「そんなことねぇよ。バルトと村長だって有名な傭兵だったんだ」

「バルトの話なんかするな。あんな裏切り者」


 おれが家を出て、バルトはカーシャと同居していると聞いた。


 妬ましいぃぃ‥‥‥



「なんでだよ。お前別にカーシャのこと好きじゃなかっただろ?」

「美人と付き合えるなんて、抜け駆けだ。抜け駆けは恨まれても文句を言えんのだ」

「ダセーな」

「ダサいだと!? そんなことは無い!! これは男として至極当然の感情だ!! おれは悪くない!!」


 ルーデには呆れた顔をされた。

 く、コイツも結構男前だからな。


 ルーデとも最初は対立していたがケンカした後分かり合えた。

 ルーデは村でも珍しくスキルを持っていて、色々アドバイスもくれた。



 スキルを使うコツとか話して、魔力回復薬も分けてあげたからかなり成長した。



「ルーデ、おれよりモテるようなことがあったら、おれはお前でも容赦しない」

「キョウ。お前、そういうところがなければモテると思うんだけどな」

「ほ、ホント? なに? どうすればモテるの? なんで知ってるの? ねぇ、詳しく教えて」

「うわ、圧が強い! 必死過ぎだろ」



 ルーデはもったいつける。

 訓練場に着いた。


 ルーデの他に三人同世代の男がいる。


「どうしたんだ?」

「ルーデが女にモテる方法をもったいつけるんだ」

「ハハハ、キョウ、まさかまだウィズを狙ってるの? 無理だって!」

「身の程知らずめ。死ね」

「大丈夫。ウィズがキョウを好きになる要素ねぇし」


 おれをあざ笑う長身の獣人がアール。

 口が悪い小さい獣人がシド。

 いつも楽観的なバカっぽいのがヤック。


「おい、ヤック! おれ、お前よりはモテるぞ!!」

「どうしてだよ。おれの方が身体デカいぞ」


 お前はただ太ってるだけだろ。


「シドだって口悪いし」

「ふざけんな。お前の方が性質悪いだろ」

「性格悪いといったらアールだろ」

「ハハ、その言葉、そっくりお前に返すよ」


 舐められている。


 クソう、どこで間違えたんだ?


 おれは『転移』でこいつらを圧倒したのに。



「フン‥‥‥お前らどうせウィズとほとんど話したことも無いんだろ?」



 四人とも黙った。


「はぁー!! 図星か!!」

「しょうがないだろ! ウィズは村長の娘なんだ!」

「ウィズはもう大人だしねー」

「お前よりは話したことあるはず」

「キョウはウィズを怒らせたんだろ。嫌われてるんじゃない?」


 みんな言い訳に忙しい。


 ウィズは確かに、ちょっと他の獣人と違う。

 高貴というか、格式があるというか。

 カーシャさんのフリとは違う本物だ。


 こいつらガキどもにとっても憧れのお姉さんのようだ。



 だが性格の悪いアール。

 口の悪いシド。

 デブでバカのヤック。


 こいつらはライバルではない。


「ルーデ。話は戻るけどモテる秘訣教えろよ」


 スキルを使えて、おまけに将来イケメン。

 おまけにモテ方を知ってたらフェアじゃない。


「おれに勝ったら教えてやるよ」



 ルーデが槍を構えた。


 おれは強さを証明することにした。


 おれはおれだけの平穏を手に入れる。

 そのために『転移』を極めて来たんだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る