25.仁義なき戦い

 

 訓練場にやってきた。


 おれより少し若い獣人と只人が数人、槍を振るって対戦している。


 すごいなぁ。


「あ、カーシャ!」


 少年たちがこっちに気が付いて寄って来た。


「あ? そいつって」

「みんな、キョウシロウだよ。村長の恩人で、バルトの家で暮らしている」

「よろしく」


 おれはご挨拶の品を取り出した。

 だが、少年の一人がそれより先に槍を突き付けてきた。


「おい、お前調子に乗るなよ!!」


 びっくりした!

 何が?

 うわ、びっくりした‥‥‥


 ご挨拶の品が行き場を失った。


「あの、これ‥‥‥」

「いらねぇよ! カス!!」

「お前、バルトさんに取り入りやがって」

「知ってるんだからな、お前ウィズのことも狙ってるんだって」

「大人たちがどう思おうがお前みたいなひょろひょろした奴なんか仲間として認めねぇ!」


 嫌われてる。


「うわぁぁぁぁ、カーシャさん~みんながイジメるよぉぉぉぉ!!!」


 おれはカーシャさんの後ろに隠れた。


「コイツ、カーシャに隠れたぞ!」

「女の後ろに隠れるなんて軟弱ものだ!」

「ふざけんな、文句があるなら前に出て言えよ!」

「死ねぇ、カス!」


 少年たちがカーシャさんの後ろに回り込む。


「消えた!」

「あれ、いないぞ!」

「どこに?」

「逃げたのか、カス!」


「確かにおれは軟弱だけど、君等は卑怯だろ」


 おれは彼らの後ろに『転移』で回り込んでいた。


「な、なに、おれたちが卑怯だと!?」

「だって、武器もって徒党を組んで一人を囲もうとするなんて、卑怯じゃん」

「卑怯なもんか!」

「よそ者のお前が勝手に来たんじゃないか!」

「そうだ、よそ者のくせに大きい態度取りやがって!」

「カス!!」


 おい、さっきから単純に口の悪い奴いるだろ!!


 親の顔が見てみたいもんだ。

 ねぇ、カーシャさん、ねぇ?


 何とか言って下さらない?


「お前たち、全員でキョウシロウに勝ってみろ」

「え?」

「お前たち、もう狩りに参加できるといつも言っているらしいな。勝てたら今度の狩りでバルトの隊に同行できるよう口添えしてやる」


 ちょっと、何言ってるの!


「よーし」

「そんなの楽勝だ!!」

「この村のルールを教えてやる!!」

「お前はウィズに相応しくない!!」


 カーシャさんは何を考えてるんだ?

 大人がケンカを促してどうするんだよ。

 しかも相手は子供だとは言え、槍を持ってるんだ。


 下手したら死ぬぞ。






 怒り狂う少年たちはおれに容赦なく襲い掛かった。


 おれはもちろん正面から戦う気なんてないしできません。


『転移』で物陰に隠れた。


「あ、消えた!」

「なんだ今の? どこ行った?」

「探せ!」

「くそ、においがしない!」


 ふはは、黒狼と戦うために、におい対策は万全だ。薬草で体臭は消してあるのさ。


 少年たちはキョロキョロと辺りを見渡す。

 隙だらけだ。

 おれは『転移・榴弾』を軽く発動した。


「うわ!!」


 一人が吹っ飛んだ。


「んな!?」


 もう一人、背後に『転移・榴弾』


「うわぁぁ!!」


「くそぉ、卑怯だぞ!! 出て来い!!」


 おれは構わず『転移・榴弾』


「ぎゃああ!!!」


 さて残りは一人だ。

 うはは、さぁ、逃げろ逃げろ。


 さぁ、少しはおれを楽しませろ。


「うぅ、ふざけやがって!!」


 残った一人がカーシャさんの元に駆け寄った。

 なるほど、これならテレショックの衝撃でカーシャさんを巻き添えにしてしまう。


「さぁ、出て来い!! 正々堂々勝負しろ!!」


 やーだね。おれは不利な闘いはしないのだ。

 勝てる戦しかしませーん。


「キョウシロウ、出て来い!!」


 もう、カーシャさんったら。淑女がそんな大声出してはしたないわ。


「このまま勝ってもこいつらはお前の強さをわからないままだ。お前の力をハッキリ見せつけろ!!」


 ふむ、一理あるな。

 カーシャさんがそう言うならしょうがない。

 後でまた挑まれても嫌だし。


「やっと出てきたな卑怯者!」

「スキル使って何が悪い。そっちだって槍持ってるんだし。それに卑怯だろうが勝てばいいんだよ!!」

「開き直りやがって!!」


 最後に残った獣人の少年。

 獣人らしく素早い。


 本気で突いて来た。


「危ないじゃないか!!」


 テレショックで吹っ飛ばした。


「うわぁ!!!」


 自分がいる場所に転移すれば『転移・榴弾』と同じ範囲攻撃ができるのだ。おれに近づくことはできない。


「くそ、こうなったら‥‥‥」

「ん?」


 少年の雰囲気が変わった。


「でやああ!!」

「無駄無駄」


 テレショックが少年を襲う。


「やぁ!!」


 少年は槍でテレショックを切り裂き直進してきた。


「うわ!」


 これはさっきまでと違う。



 この子もスキルを持っているのか。


 やべ、考えて無かった!!


「でやぁぁ!! 喰らえ!!!」


 だが、甘いな。


「『転移・天地逆転』!!」

「ぎゃ!」


 突然上下さかさまにされ、頭から地面に突っ込んだ。

 そのままの勢いでゴロゴロと転がる少年。


 素早く立ち上がるが、おれの目の前だ。


「ちょ、待っ――」


 テレショックで少年は吹っ飛んだ。


「ヴィクトリー!!」


 やはり『転移』は最強だぜ!!

 さて、そろそろ魔力回復薬を‥‥‥


 いつも入れているポーチに手を伸ばした。



 その時、カーシャさんの手がおれの手を掴んで搾り上げた。



「いててて、何!?」

「ふ、油断したな。キョウシロウ、お前の負けだ」

「ちょっと、それは無いでしょ!!」

「さすがのお前も魔力切れだろう」


 ひ、卑怯者!!


「油断した隙に後ろからだなんて卑怯だ!!」


「卑怯でも勝てばいいんだろ? あのままどこかに隠れながら戦っていたらこうはならなった」

「‥‥‥いやそれはカーシャさんが」


 カーシャさんが手を放した。


 ああ死ぬかと思った。


「人相手は初めてだろ?」

「まぁ‥‥‥」

「訓練をしないと相手が何をしてくるか読めなくなる」

「訓練か‥‥‥」


 バルトもやれって言ってたな。


「まぁ、私が一番強いってことね」


 あんな卑怯な勝ち方して誇らしげだ。


「くそ、カーシャ、おれたちを囮に使ったな!!」

「あんただって私を盾にしただろ?」

「くそぉ、勝負だ!!」

「うぉぉぉ!!」


 カーシャさんは強かった。

 護身術やスポーツの強さって感じじゃない。

 実戦的な強さ。


 彼女も傭兵だったんだと理解した。


 おれよりレベルが低いと言っていたけど少年の槍を受け止めて、少年ごとぶん投げていた。

 スラリとしなやかな淑女の中身はゴリラだったのだ。


「くそぉ!!」

「この年増め!!」

「行き遅れ!!」

「クソババア!!!」

「フフフ、いい覚悟だ。ガキどもぉぉぉ!!!」


「「「「ぎゃあああああ!!!」」」」


 地獄絵図だ。

 逃げ惑う少年たちが狂暴なゴリラ女に蹂躙されていく。


 エマージェンシー!!!

 だ、誰か!!

 誰か止めて!!



「バルトが嘆いていた。最近お前たちが自分たちの強さを過信していると。だが所詮よそ者のこんなひょろひょろの小人に負けた。四人がかりで手傷も与えられずね。外の世界で自分たちが如何に弱いか自覚した?」


 カーシャさんにコテンパンにされて悔しがる少年たち。


 おれも悔しい。利用された。

 こうやって力関係を確立するわけだな。


 ということはおれが下克上してもいいってことだよねぇ!!!


「『転移・天地逆転』!」


 カーシャさんはそこに居なかった。


「一度見せた技を簡単に使うな!!」

「あぇ?」


 素早く移動した彼女はおれが魔力を込める前に移動し、おれの死角に移動していた。

 呆気にとられたおれは背後から近づくメスゴリラに気が付かなかった。

 おれは殴られ、眼が覚めた時には‥‥‥



「いてて‥‥‥」

「よぉ、起きたか」


 少年たちも一緒にボロボロになって座り込んでいた。


「キズ薬いる?」

「‥‥‥おう」


 敗者同士、少し仲良くなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る