24.錬金術師アンブロシス
「昼食とったら、村の中を案内するわ」
根気よくバルトの武勇伝を聞いていたら機嫌よくなったカーシャさん。
料理はおいしかったけどバルトの武勇伝が続いた。
まぁ、適当に聞き流してたけどね!
ほげー。
食後、食器を洗う際、草石鹸を使った。
「それにしてもずいぶんきれいになったわ。これは何なの?」
「ああ、カーシャさんが石鹸を隠すから‥‥‥」
「悪かったよ」
ただ薬草を混ぜただけの草石鹸の造り方を伝えるとカーシャさんが唖然とした。
「‥‥‥森で採れる薬草で造れるなら、わざわざ高い金払って石鹸を買う必要ないじゃないか!」
「ひぇん、ごめんなさい!」
急に怒鳴んないでよね。
「いや、石鹸が買えないから造ったんだけど。というかここの石鹸ってどこで手に入れてるの?」
「片道二週間の道のりで夏は北のカサドラル王国、冬は南のシーア帝国から仕入れるんだ。大量に買いだめているから金もかかる。そのくせ質はイマイチなんだ」
「森に入ればタダだよ。量産すれば特産品になるかも」
「特産?」
「いやだってここは交易都市にするでしょ。特産品がある方がお金が落ちるじゃん」
「そ、そうか。それ、村の薬師に教えても構わないか?」
「えぇ、いいんじゃない?」
「そうか」
交易都市には衛生面が大事だ。感染症とかも怖いしね。
「よし、ならさっそく村を回ろう。薬師の元に案内する」
「はい」
◇
カーシャさんの紹介で村人たちに御挨拶した。
ごあいさつ代わりに草石鹸と薄めた霊薬を配った。
これからお世話になるのだからちょっとぐらい問題ないだろうとカーシャさんからの了解も得た。
魔獣の血で汚れた服の洗濯は大変だし、狩りはもちろん訓練や土木建築作業、農作業で切り傷が絶えないらしく、みんなすごく喜んでくれた。
「ホォ、霊薬のみならず、このようなものまで‥‥‥ホォ、なるほど、これらを組み合わせるとこのような」
感心しているのは村で唯一の薬師。
カサドラルの大学を出たドワーフのアンブロシスさん。
アンブロシスさんの本業は魔法研究で、その研究過程で身に着けた知識、医学知識、錬金術など幅広い教養、専門知識を村の問題解決に役立てているそうだ。
おれが提供した魔鉱石を使って魔力障壁を造る計画もアンブロシスさんが主導する。
「ホォ、水に溶けやすく泡立ちが良い。これは使い勝手がよろしいですな。しかし、固めず液体で使う石鹸とは考え付きませんでした」
「適当に混ぜただけなんで」
「ホォ、しかし、材料に使われている薬草は的確でございますよ。火傷に効くアーカーの実の種子、泡立ちを起こすサクサ草の根、解毒作用のあるトロネ草の葉、これらを組み合わせる発想が素晴らしい!」
「へへ、そうすか」
知識チートで知っているだけなんだけどね。
「アンブロシス、これは量産できる?」
「ホ、どれも森で豊富に手に入るものばかりでございます。これで病気も大幅に減るでしょう。いやはや、エルフ以外にこのような発想を持つ方が居られるとは」
「エルフ‥‥‥?」
「聖樹教国アルタか。あそこは医療大国だからな」
聖樹教国アルタ。
ここから西へ、広大な森と山を越えた先にある大国、か。
異世界に来たからにはエルフにも会ってみたいな。
「この村にはエルフはいないの?」
「いないな。彼らはアルタ以外にはほとんどいない」
「そっか」
残念。
アルタは地理的にかなり遠い。
会えるのは相当先だろう。
「ホ、そう言えばカサドラル王国のシジュン家にエルフがいると聞いたことがありますぞ」
「え? 本当?」
「はい。大昔、カサドラルの南はエルフやドワーフ、只人が共存繁栄する国でした。その頃から仕えているエルフがまだいると聞いたことがありますぞ」
「じゃあ、交易事業の関係で会えるかもしれないよね?」
「エルフの何がいいんだ? 痩せっぽちで青白くて高慢な奴らだぞ」
わかってないなぁ。
異世界に来たからにはエルフに会わなければ。
「ホ、キョウシロウ殿、いいことを教えて下さったお礼ですじゃ。これをどうぞ」
アンブロシスさんが透明な球をくれた。
これってもしかして‥‥‥。
「これは『遠見の水晶玉』と言って、遥か遠くを見渡せる魔導具ですじゃ。氷柱怪鳳という氷柱鳥の変種が居ましてな。はるか上空から獲物を定め鋭いくちばしで一突きするのですが、この時スキルを用いた‶眼〟で獲物を捕らえるのですじゃ。この氷柱怪鳳の眼と魔石を錬金術で加工し造った私の傑作ですじゃ」
「そんな貴重なものをいいんですか!?」
だって、お高いんでしょう?
「ホォ、もちろんです。ただし、その魔道具には大量の魔力が必要なのであまり多用は出来ないのですじゃ」
「ドワーフで無理なら只人のキョウシロウには使えないだろ」
「いや、試してみる!」
これが使えたらとてつもなく便利だ。
なにせ、『転移』は目視した場所でないといけないからな。
これがあれば行ったことの無い場所、見たことの無い場所にも行ける。
「手をかざし、場所を思い描くのじゃ」
「おっしゃ!」
こういうのは転移で慣れている。
おれは北、カサドラルの方角を思い描いた。
すると水晶に森が浮かび上がった。
「動いた!」
「ぬぬぬ、まだまだ」
もうちょい北か?
視線を移して探す、地図アプリを操作するような感覚。
「ホォ、ホォ!! 上手ですじゃ!! ここは間違いなくカサドラルの南部の森!!」
「ぬぬぬ!!」
おれは建物が集まる場所を捕らえた。
「見えた! ここがカサドラル」
「お、おい、魔力は大丈夫なのか?」
「ええ、まだ余裕です」
「ホ!? す、すごいのですじゃ‥‥‥」
よーし!
慣れてきたぞ。
せっかくだからエルフさんを探そう。
えーっと、お城の方かな。
建物の中は‥‥‥なるほど、ピントを合わせる感じで。
「お、おい‥‥‥これはただの覗きなんじゃ」
「もうちょっと‥‥‥ちょっとだけだから」
城の中を駆けまわるようにおれはエルフを探した。
すると、たくさんの蔵書に囲まれた一室で見つけた。
「はい、キターーーー!!!!!」
美しい妖精のような、理想的なエルフがそこにはいた。
「き、綺麗だ‥‥‥」
「‥‥‥おい、キョウシロウ? お目当てのエルフは十分見られただろう。ヒヤヒヤするからやめろ」
「もうちょっと‥‥‥」
「おい、やめろ」
バコンと頭を叩かれた。
「痛い」
「相手がスキルを感知するスキルを持っていたらどうする? 相手は長命のエルフだ。気配に気づくかもしれないだろ!!」
「は~い」
「それにしても‥‥‥」
「ん?」
「キョウシロウ、お前レベルはいくつ?」
「18だけど?」
「‥‥‥その歳で!?」
カーシャさんとアンブロシスさんが驚いていた。
え? おかしいのか?
バルトは35歳で確か48とかだったけど。
「どおりで魔力が枯渇しない訳ですじゃ」
「16歳ぐらいは高くても7か8ぐらい。18って私より上じゃないか!」
「まぁ、がんばったんで」
アンブロシスさんが首を振った。
「キョウシロウ殿、一般的にレベルが上がりやすいのは戦闘ですじゃ。しかし普通の獣を倒し続けるとレベルは上がりにくくなるのですじゃ」
確かに、おれも食料のためにうさぎもどきとかを狩ってレベルが上がったけど、7ぐらいからいくら狩っても上がらなくなった。
「レベル10を超える者は魔獣を倒すなどで経験を積んできたもの。それより上ということは大型魔獣の討伐は荒らし喰だけではなかったのか?」
「うん、森に居た黒い毛の狼なら何匹も倒したよ。倒したのは全部荒らし喰に食べられたけど」
ん?
なんだこの空気は?
「キョウシロウ殿。魔法について知りたくなったらいつでもご教授しますぞ」
「え? いいの?」
魔法とか使えるなら使ってみたいぜ!!
「キョウシロウ。やっぱりお前、魔法も使えないんだね」
「魔法
「」
「魔獣を食った魔獣は強くなる。お前よく無事だったよ。そうかだからバルトは‥‥‥」
「ん?」
カーシャさんが何か思いついたようで、村の別の場所に案内された。
若者たちが槍を振るっている。
訓練場だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます