20.『転移・口寄せ』
昼過ぎ、おれとバルト、それとルンガルシフは村長の元を訪ねた。
事情を説明すると夕方には村の各方面のリーダーが全員集合した。
「キョウシロウ殿、まず確認だが、この巨大な純魔鉱石をこの村にご提供いただけるというのは真だろうか?」
「はい」
「キョウシロウ殿、この鉱石を売ればどこでも好きなところに好きな家を建て、遊んで暮らせるであろう。貴族の身分を買うことも敵うかもしれんが、わかっているのか?」
「まぁ、なんとなく」
「キョウシロウ殿? わからぬのだが娘ウィズの話では衣食住を求め私に霊薬を下さったという。しかし、この鉱石は礼として下さるというのか? 我らに何も求める?」
「ああ、それは‥‥‥」
あいまいな答えや、嘘は皆を不安にさせるだけか。
おれが皆に求めるもの。
それは助けてもらったら助けて、助けられたらお礼して、困ったら助けてもらえて、困った時助ける関係、かな?
街で悠々自適な生活ができると聞いてもなんだか心は動かなかった。
いい思いができるのだろうけど、それはそれで危ない気がする。
いい思いをする上で誰とも信頼関係を築けないからかな。
むしろ妬みや恨みを買いそうだ。
おれは信頼が欲しいのか。
みんなに信頼してもらうには、おれがみんなを信用しないと。
「実は隠していたことがある」
おれはみんなの前で、魔鉱窟のことを話した。
魔力回復薬、霊薬、魔鉱石がどれだけあるかを明かすこととなった。
「――‥‥‥そうであったか。それで合点がいった。ウィズに霊薬を授けたというから何かあるとは思っていたが」
会合の場はシンと静まり返った。
「村長」
「む、バルト、なんだ?」
「おれはキョウシロウの力、資産を村で保護することを提案する」
「保護?」
保護ってなに?
「コイツはこのように知略を巡らし出し抜くという処世術が無い。非常識で、接触する人間によっては脅威にもなり得る」
「本人がいる前でひどくない?」
「そうだな」
「肯定しないでぇ」
これ、信用されてないよね。
「だが、キョウシロウは己の利益よりもそういうリスクから逃れるためにおれたちに正直に話したのだと思う。ならその信用におれたちも応えるべきだと考えるが、どうか?」
「うむ、皆どうだろう?」
ヴァクーネン村長の問い掛けにみんなが頷いた。
「同じ只人たちよりおれたちを信用してくれたというなら応える以外あるまい」
「先のことを考えれば、今打ち明けてくれてよかったですよ。我々の知らない所で噂になってシーアやカサドラルの他の勢力が動いたら計画は全てご破算でしたでしょう」
「うん、キョウシロウ殿のもたらす恩恵はいざという時、キョウシロウ殿の判断で、それ以外は極力会合で内密に決めましょう」
「そうだな。争いの元にもなり得る。して今回のこの純魔鉱塊は‥‥‥」
「キョウシロウ殿、我々を信用してくれた気持ちはありがたいがこの純魔鉱塊は手に余る。指先に乗る程度の欠片はあるだろうか?」
「はい」
そうだ、ウィズがいるなら。
「ウィズ、ちょっと」
「なんだ?」
おれは手を出した。
ウィズは首を傾げながらもおれの手を握った。
「おいおい、なんだ? ウィズを嫁にってか?」
「な、違うぞ! これはキョウシロウの国のあいさつだそうだ」
「そう、あいさつ」
「未婚の娘に触れるとは。キョウシロウ殿、これは責任を取ってもらわねばな」
「えぇ、そうなの!!?」
「キョウシロウ殿、本気にするな。父上はキョウシロウ殿を側に置いておきたいのだ」
ビックリした。
ま、おれは良いけど。
こんなかわいい子と家族になれるなんて想像できないな。
そろそろいいか。
おれは転移でアポーツを試みた。
「あれ?」
発動しない。
「どうした?」
「いや、スキルを使おうとしたんだけど。前はウィズと握手をしたらできたんだ」
「む、それで何度も手を握って来たのか?」
「あ、ごめん」
「でも、なぜ私なんだ? バルトじゃだめなのか?」
それもそうなんだ。
てっきりウィズが条件だと思ったのに。
前は出来て今回は出来なかったのはなんでだ?
「ほぅ、お前の手に傷があったのはそういうわけか。荒らし喰を討伐した後でも無傷だったのになぜなのか不思議だったんだ」
「うん‥‥‥あれ?」
「すまん! 爪が刺さっているとは思わなくてな。昨日の宴の後爪に血が付いていたからもしかしてと思ったが」
今回はウィズの爪が刺さってない。
おれはウィズの手を取った。
「ちょ、キョウシロウ‥‥‥そんな風に握られては」
「これは責任を――」
おれはウィズの爪で自分の手をぶっ刺した。
「キョウシロウーーーー!!!?」
慌てふためくウィズたちを他所に、おれの手には小石ほどの魔鉱石が現れていた。
「‥‥‥あ、それは」
成功だ。
おれは『転移・口寄せ』を修得した。
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