19.純魔鉱石~魔力障壁
フラノ村へ戻り、大量の木材を職人たちに引き渡した。
「こりゃすげぇ‥‥‥」
「一度にこれだけの木材を、あの森から?」
「これだけあれば家一軒どころか家畜の柵も、架け橋の補修も、屋根の修理もしばらく持つな」
村人たちも集まり、総出で加工することになった。
皆木材が欲しいのだ。
「キョウシロウ君すごいなぁ。君が村に居てくれたら、もう木材には困らねぇなぁ」
ガドガがほめてくれた。
相変わらず顔に似合わず優しいオークだ。
「フン、まぁ少しは出来るようじゃな」
ルンガルシフ、少しはガドガを見習えよ。
「それで、坊主どんな家がいい?」
「え?」
「資材が限られて居ったから最低限のものをと思って居ったが、自分で働いた分少しは要望を聞いてやる。少しな!」
おお、やった。
というかルンガルシフが建てるのか?
「ルンガルシフって建築家なのか?」
「ん? ああ言ってなかったか。ワシは大体何でもできるぞ。家の設計から鍛冶全般、金属細工、魔導具の開発まで造ることなら何でもワシにまかせい!!」
「おいらも家づくりは得意だよ。設計が決まればすぐ建てられるからね。キョウシロウはどんな家に住みたいんだ?」
う~ん。
希望か。
おれも雨風防げる最低限の小屋を想像していたからなぁ。
「なぁ、おれとキョウシロウは朝食もまだだ。家の話は食べながら話そう」
そうバルトが提案し、おれは職人たちと遅い朝食をとることにした。
野菜のスープに肉とキノコを挟んでチーズをかけて焼いたパン。
ご機嫌な朝食だぜ。
「厨房は広めがいいな」
「お前、料理するのか?」
「いや‥‥‥まぁ」
魔力回復薬を造るところと料理するところは別が良いんだよな。
匂いが籠るし。
「換気がしやすくてにおいが籠らないとうれしい」
「まず換気か。変わった希望じゃな。まぁ風通しは大事じゃがのう」
そうだ。
子供のころから憧れていたものがあった。
「隠し部屋と隠し通路が欲しい!!」
「なんじゃ? そりゃ隠したいもんがあるからか?」
「いやただのロマンだ。秘密の地下室とかかっこいいだろ?」
「お前のスキルなら扉の無い部屋とかがいいんじゃないか?」
おお、バルトさすが!
「おれだけしか入れない部屋! いいね!!」
「まぁ構わんが。悪用するでないぞ。村人が消えたら真っ先に坊主を調べるんじゃからな」
「しないよ」
霊薬と自然回復薬をストックしておくのにいい。
「あとどうせなら風呂場が欲しい」
前の家には無かったからな。
「風呂か。それは初めてじゃな」
「え。村に風呂ないの?」
「風呂なんて街でも貴族ぐらいしか持ってない。あとは大きい街に公衆浴場があるぐらいだ。基本はぜいたくだ」
「いや、小さくていいんだけど。窯に水張って火で沸かすだけだし。水はおれが自分で組めるから排水を備えてもらえれば」
「個人用の風呂か。考えておこう」
あとそうだ。
「これは家じゃないんだけど」
「なんじゃ?」
「森で鉈も斧も壊れちゃって、フライパンとかも」
「はぁ、図々しい奴め。それは工房に備えがある。勝手に持っていけ」
「わーい」
ルンガルシフ、なんやかんやと頼みを聞いてくれる。
意外と良い奴だな。
そうだ。
「なぁ、魔力を宿す鉱石があったら何か役立つか?」
魔石湖の魔鉱石、おれじゃ利用する手段がない。
「‥‥‥それは魔石ではなく、魔鉱石のことか? 坊主、お前持っとるのか?」
ルンガルシフが詰め寄って来た。
なんだ?
バルトをちらりと見る。
「キョウシロウ、魔鉱石は希少な金属の一種だ。様々な種類があるがいずれも魔導具や武器に使われる」
「魔石とは違うのか」
「うむ、魔石は魔力を内包するが消耗品じゃ。魔力を持たないものには重宝され、魔導具を動かす燃料となる。一方、魔鉱石は魔力を溜め込み半永久的に使える。ゆえに魔法武器、魔剣士の剣や魔導士の杖、都市の魔力障壁などに使われる」
「へぇ~」
魔鉱石は繰り替えし使えるバッテリーを内蔵した便利鉱石ってことか。
「これから世話になるから一個やる」
「な、なんじゃと!! 本当か!! 魔鉱石があれば‥‥‥」
「この村にも魔力障壁を造れる。交易の中継とする話が一気に進むぞ」
「なんのことだ?」
この村は北のカサドラル王国、南のシーア帝国の間に挟まれた未開拓地にある。
両国の有力者は互いの利益のため交易の中継場所としてこの村に期待を寄せており、フラノ村も前向きに話を検討している。
だが問題があった。
そもそもここに人が住まないのはここが魔獣の住処の真ん中だからだ。
森、平原、丘、山、どこもかしこも魔獣だらけ。
開拓するにも基地が無いし、両国が軍を出すと戦争に発展しかねない。
そんなフラノの地に住めるのは屈強な元傭兵たちや獣人たちぐらいで、例え交易の拠点となっても膨大な輸送費に護衛費がかさむことになる。
将来的に投資をすればするほど拠点となる村はすそ野を広げ、魔獣のターゲットとなっていく。
「その問題を解決できるのが魔力障壁だ。それさえあれば魔獣の侵入を阻止できる。シジュン家とマダム・アルトリンデンの資金集めを後押しできる」
バルトがすぅと手を出した。
今出せってことか?
こういう時あの技が使えたらな。
結局ウィズと握手をした後以外では転移でアポーツは出来なかった。
あれができたならファンタジーものでよくあるマジックバックとストレージ機能みたいなことができるのに。
「ちょっと行ってくる」
『転移』で魔石湖へ。
いや魔石湖だと紛らわしいか。
魔鉱窟にしよう。
「ただいま」
「うぉ、本当に一瞬じゃな」
「すごいスキルだね。驚いたよ」
「まぁな。はい、これ」
職人たちとバルトが眼を見開いた。
おれが持って来たのは落ちてた塊だ。
とりあえず大きい奴。
ピッケルがあればもっと大きいやつもあったんだけどね。
「な、なんちゅうデカさじゃ!!!」
「え?」
「す、すごい!! 大型魔獣の魔石ぐらい大きいね!!」
「え?」
「こ、これは‥‥‥お前、なんてものを‥‥‥普通魔鉱石と言えば指先ぐらいの大きさだぞ!!」
わぁ‥‥‥。
いや村のバリアに使うなら小さいとダメだと思ったし。
「それだけじゃないぞい!! これは純魔鉱石じゃ!! あらゆる属性の魔法効果を引き出せる代物!!」
魔鉱石にもいろいろあると言っていたが、これはいいものらしいな。
おれは間接照明にしか使わないけど。
おれは純魔鉱石をルンガルシフに渡そうとした。
「っおい!! なんじゃ!?」
「いや、何って使うんでしょ?」
「ば、ばかこんな国宝級の代物、怖くて触れんわい!!!」
じゃあバルト。
黙って首を振られた。
「これは村長とみんなで話し合って決めよう。おれたちの一存で決められることじゃない」
おれはただお礼をしたかっただけなのに。
これが異世界ものの小説でよくある、「おれ、何かやっちゃったぁ~?」って奴か!
実際やるとあんまり気分良くないな。
おれのこの感謝の気持ちはどこに納めればいいの?
だれかスッともらってくれよ。
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