8.森の外へ

激戦から一夜明けた。

その間やったのはお片付けた。


レベルは7から13へ上がった。

魔力の急激な増大。

『転移・榴弾』の威力拡大。

フォースフィールドの長時間持続の成功。

武器と『転移・榴弾』を利用した新たな接近攻撃、物体をテレショックで発射する。

これを『転移・徹甲弾』と名付けた。


これが今回の戦いの主な成果だ。


だが、家は半壊。

手斧が無いから薪も割れないし、鉈も黒狼のド頭カチ割ったら折れてしまった。


いよいよ本格的にこちらの文明との接触を計らねばならない時が来たようだ。


しかし問題がある。


「金が無ねぇ‥‥‥」


死んだ黒狼たちから毛皮を剥いだり牙や爪を採ったりして素材として売るとかを考えはした。


「いや、素人のおれにそんなことできるわけねぇじゃん」


こちとら平凡な日本人ですぜ? ハワイで親父に教わってねぇってばよ。


念のため死体は水場に沈めて腐らない様にしているが、どれぐらいもつかも知らない。もう腐ってるかもな。


しかし、このままここに留まり続けるわけにもいかない。


「まずは様子見かな‥‥‥」


自然回復薬と魔力回復薬に眼が止まった。


これを売るか?

いやいや、オチが分かりきっている。

薬草師でもないおれがこんな効き目のいいものを持っていたら出所を探られるだろう。

金を造るにしても悪目立ちはダメだ。


「そうだ!」


おれは少しばかり準備をして、頭の中にある地理を頼りに一番近い街の方角へ『転移』を繰り返した。


ああ、服!

服ってこれで良かったのかな?

流行とか、遅れてたりして馬鹿にされないかな?


ああ、髪型!

人に会わないから最近気にしてなかったけどみっともないかな。

切ってくれば良かったか?


ちゃんと喋れるかな。

言葉が通じなかったらどうしよう。


はぁ、嫌だな。絶対変人扱いされるよな。


ナイーブでセンシティブなおれの心は情操教育が完了する前の幼児並みに不安定揺れ動いた。


森を抜けると草原に出た。


「う~ん、マーキングする場所は‥‥‥」


だだっ広く、目印になるものない。おれはウロウロとしていて方角を見失っていた。

平原は起伏があって、丘になっているようだ。

基礎能力が上がっているからか、あまり疲れなかったが、おれがそれを見つけるのに二日も掛かってしまった。


「ああ、これは道か!!」


草を取っ払った土の質が違う場所を見つけた。


街道らしき道を進んだ。


「おぅ?」


丘の上に出た。

遠くに建物が密集した場所があった。

村だ。


頭の中の地理とすり合わせる。

どうやら街への最短からだいぶ逸れていたようだ。


「不幸中の幸いだ。いきなり街に行くよりこっちの方がハードルが低いし」


自分に言い訳をして前向きに考えた。


「どうやって取り入ろうか‥‥‥」


自分を何者として紹介しようか悩んだ。

警戒されないようにするにはどうすればいいのか。

そもそもおれの見た目はこの世界では浮いているかもしれない。バリバリ警戒されるだろう。

どこから来て、何をしている者なのか。

もっともらしく話せるようにしないと。


他国から来た商人?

襲われて、荷が無いとか、迷ったとか。

うん、こんな感じでいいか。


よしとっとと近くまで『転移』してしまおう。


遠目から村の様子を見ることにした。


村と言っても石を積んで結構きれいに造っている家がある。

道も石を敷き詰めていて整備されている。

村の周りには堀があって、周囲を壁で覆っている。魔獣とかがでる異世界ではこれぐらい当然か。小さい城壁都市のようだ。


「おい、お前何者だ?」

「はぇ?」


後ろから突然話しかけられた。

だが振り向けない。

首に冷たい鋭利なものが突きつけられている


ホールドアップ!!


「おい、動くな!」

「すいません!! 怪しい者じゃありません!!」

「ほう、我らの言葉を理解するとは、増々怪しいな‥‥‥」

「えぇ~?」


草むらの中から次々と男が現れた。


普通の人間ぽいのもいるが、頭から耳が生えてるやつもいる。

獣人だ。獣人の方が多い。


気が付かなかった。

囲まれてる。


「それに見たぞ。急に現れたな。どうやった?」


スキルも見られてた!

『転移』とバレてないのはレアなスキルだからだろうか。

スキルの内容がバレてないならどうする? 逃げるか? 逃げよう。怖いし。


おれは『転移』を発動しようと試みた。

だが、できない。


なっなんでだ!?


大混乱だ。

自分の潔白を証明することもできず、狼狽えているうちにおれは屈強なメンズにがっしり掴まれた。


抵抗できず、おれは拘束され連行された。


何もしてないのに‥‥‥おれは無実だ!!

放せよ、チクショウ!!!

後で後悔するぞ!!!


「は、放してくださぁい、お願いしますぅ‥‥‥」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る