7.大黒狼の襲来
前はビクともしなかった黒狼を布切れで倒せた。
ということは‥‥‥
「ステータスオープン!!」
■壬生京志郎 16歳
■レベル:10
■スキル:『転移Lv.2』
レベルが3つ一気に上がってる。
『転移・闇討ち』で1匹。
『転移・榴弾』で1匹。
『転移・榴弾嵐』で4匹。
6匹分の経験値が入ったんだ。
レベルが上がったおかげで魔力量もそうだが、基礎能力も上がる。
最初に遭遇したときはレベル5だった。これなら黒狼も前程脅威じゃない。
「ぬはははは!!! 順調順調!! 所詮は獣だ! 人間様に楯突くからこうなるのだ!!」
緊張から解放されたからか、興奮しているからかおれは笑いが止まらなくなった。
勝利の美酒に酔っていた。
相手が撤退したか確認を怠った。
鎮火した煙と暗闇に紛れ、巨大な黒狼が音も無くおれの背後に居た。
「――っ、『転――」
何かでぶっ飛ばされた。
壁を突き破り、一気に家の外まで弾き飛ばされた。
「かはっ――」
身体が動かない。
なんだ今のは!? 何の音もしなかった。それに牙でも爪でも無く、何かで吹き飛ばされた。
まさか、スキル!?
黒狼もスキルを使えるのか!??
家の外にはまだ3匹の黒狼がいた。
取り囲まれ、食われそうになる。
「『転移』!!」
保管庫に戻ろうとしたが、上手く魔力が込められない。これも奴のスキルの影響か?
黒狼たちはおれの身体に遠慮なしに噛みついた。
「ぐわぁ、やめろぉぉ!!!」
抵抗する力が無い。
おれは必死に首を腕で庇って丸くなった。
爪が肉を裂く。牙が身体を抉る。
いや、耐えられる。
最初の大量出血の時に比べれば、身体は頑丈になっているはず。
慌てるな。さっき転移しかけて失敗したから魔力不足だ。
全身の転移が無理ならフォースフィールドだ。
おれは目の前にある物を転移して、自分にフォースフィールドをかけた。
黒狼たちの牙や爪が弾かれ、逆にダメージを負ってたじろいでいく。
調子に乗るな。
家の奥から一際デカい黒狼が現れた。
デカい! 他の奴の1.5倍はある!!
コイツがボスか!
大黒狼の眼がどす黒く光った。
なんだ? フォースフィールドがバチンと何かを弾いた。
大黒狼がビクッとして、おれに近づく脚を止めた。上手くいかずに唸り声を上げながらおれの周囲を周り、警戒している。
スキルを防いだのか。
フォースフィールドはスキルに有効だと証明された。
加えて、砂を転移対象とすることで、フォースフィールドの持続時間を増やすことに成功した。
手の中の砂をじりじりと転移させていくことでこの砂が無くならない間はフォースフィールドを維持できる。
おれは素早く魔力回復薬と自然回復薬を飲もうと試みた。
あ、飲めない!
グッ、呼吸も!?
おれは手の中の砂を止めた瞬間魔力回復薬を飲んだ。
「ぷっは!『転移』!!」
自分を転移させ保管庫の中へ。
「‥‥‥はぁ、はぁ‥‥‥危なかった」
まさかフォースフィールドが空気も弾いているとは。
おれは改めて自然回復薬を飲み、全快した。
「だが、大黒狼のスキルを防げるのはフォースフィールドだけだ」
奴らは警戒して中には入って来なかった。だが家の壁を破壊し、こちらをあぶり出そうと執拗にプレッシャーをかけて来る。
おれはプレッシャーの中、作戦を考えた。根負けするわけには行かない。
想定外は大黒狼のスキル、それにあのスピード。他の個体とは基礎能力が全く異なるのだろう。
今のおれは魔力量が増えて『省エネ転移』の連続発動回数、全力の『転移・榴弾』の威力は未知数だ。おれの全力があのモンスターに効くかどうか確証はない。
「どう動いても賭けだな」
朝までまだ何時間もある。家が持たない。
それにおれも。
傷は癒えても血は戻っているわけじゃない。精神的にもおれが不利だ。
ボスである大黒狼を倒せば撤退する、そう思い考えを巡らせたがそれだと手詰まりになる。
「まずは確実にできること、この精神的不利を覆す方がいい」
おれは木の上から状況確認、『転移・榴弾』の狙いを定めた。
一匹ずつでは家の中に逃げられる。
同時に始末するタイミングを見計らった。加えてこの攻撃で、おおよその魔力量を測る。
家の周囲を破壊していた黒狼が外の大黒狼に駆け寄って来た。
「今!」
小石に全魔力を注ぎ、投げた。
転移開始によるテレショックと転移後のテレショックが重なり、衝撃波が拡散、三匹を巻き込んだ。
「うぉ!!」
かつてない衝撃それに音。
三匹はバラバラに砕け散った。
「いけるぞ!!」
おれはステータスを確認しながら魔力回復薬を飲んだ。
■壬生京志郎 16歳
■レベル:11
■スキル:『転移Lv.2』
よし、レベルが上がって、さらに威力を出せるようになったはず。
三匹を始末はついた。
これで状況は逆転だ。
大黒狼もさっきの特大テレショックでふら付いている。
やばい、こっちに気が付いた。
おれは急いでフォースフィールドを張った。スキルをバチンと弾く感覚。
『転移』して身を隠した。
奴は不意打ちの『転移・榴弾』も躱す。だが躱されることを前提にすれば‥‥‥
木を見上げている大黒狼の背後から『転移・榴弾』をかました。
全力ではない、囮だ。
思った通り、大黒狼は瞬時に気が付き、飛びのいた。
その先に『転移・闇討ち』を決行した。
おれが振り下ろしたのは薪割り用の手斧だ。
「どりゃあああああ!!!」
声が出た。
首に食い込んだ。
ダメだ。分厚い毛のせいで致命傷に達していない。
「どりゃりゃりゃりゃ!!」
おれは手斧の柄に魔力を込め『転移・榴弾』を発動した。
バキンと手元でデカい音がし、おれは勢い余って地面に落下した。
すぐに立ち上がろうと顔を上げると大黒狼と眼が合った。
「あっ‥‥‥」
ドスンという大きな振動と共に、大黒狼の身体が倒れた。
おれは震えながら慎重に、大黒狼の頭部から距離を取る。
地面には手斧の先が深く食い込んでいた。
テレショックの衝撃で発射されたのだ。それが大黒狼の首をちょんぱした。
「や、やっと、終わった‥‥‥」
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